【横井ゆは菜〈下〉】最後の全日本「何があっても笑顔で」 貫いた信念とあふれ出た涙

日刊スポーツ・プレミアムでは、毎週月曜日にフィギュアスケーターのルーツや支える人の思いに迫る「氷現者」をお届けしています。

シリーズ第5弾、横井ゆは菜(22=邦和みなとSC/中京大)の全3回の下編です。転機となった2017年の全日本選手権、シニアに上がり、「ゆは菜」らしさを濃くしていく日々。そして、現役引退を発表した2022年の全日本選手権へと向かいます。(敬称略)

フィギュア

【横井ゆは菜 笑顔の全日本ラストスケート 最後は涙が】

「いま思い出しても鳥肌が立つ」17年全日本

3連続ジャンプで締める、こだわりのラストが迫ってきた。

それまではミスなく、会場の手拍子もだんだんと大きくなっているのを感じていた。

2017年の全日本選手権のフリー。

直前のステップシークエンス、踏むごとに背中を押されるように声援を受け、最後の瞬間が訪れようとしていた。

ダブルアクセル、3回転トーループ、片手を掲げての2回転トゥループ。

勢いも幅も十分。確信があった。

ノーミスの演技。

着氷後にすぐに止まって、右指を前に差し出したフィニッシュポーズを解くと、もう1度、今度は両手を掲げて、跳んだ。

「意識的ではなく、自然に出たガッツポーズで。しがない選手、というのも変ですけど、全日本ジュニアに出ても(表彰)台に乗ったり乗らなかったりする選手で、中途半端な成績を残している選手だったので、大歓声を浴びる経験がなくて」

17年全日本選手権、SPの演技を見せる横井

17年全日本選手権、SPの演技を見せる横井

試合は平昌五輪の最終選考会だった。最終グループの1つ前、五輪を狙うのは厳しい位置からの演技だった。代表争いをする選手たちとの差も自覚していた。だからこそ、この日最大級とも思えた降り注ぐ拍手と祝福に、震えた。

「いま思い出しても鳥肌が立ちます」

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。