【箱根駅伝2023あえぐ名門〈12〉完】早稲田は変わったか 取材6カ月を振り返る

47回連続92度目となる箱根駅伝を総合6位で終えた早稲田大学競走部。昨年6月にOBの五輪ランナー花田勝彦を監督に迎え、前回13位のシード落ちから息を吹き返そうと駆ける、指揮官、選手を見つめてきた。連載はこの第12回で最終回を迎える。「早稲田らしさ」を貫き、更新し、どう育て、勝つのか。新チームの本格始動の姿に、その道筋は示されていた。(敬称略)

陸上

総合6位でゴールする10区菅野。早大は昨年13位から順位を大きく上げ、シード権を確保した

総合6位でゴールする10区菅野。早大は昨年13位から順位を大きく上げ、シード権を確保した

設定ペースから次々脱落した昨夏を経て

1月11日、全体練習の再開日。

箱根駅伝を終えた翌4日早朝に産声を上げた新チームは、数日遅れの「正月休み」を挟んで、本格的なスタートの日を迎えていた。

午後3時過ぎ、続々と選手が集まり出す。すでに防寒の上着を脱いでタンクトップ姿の者もいる。

いつものように、それぞれが考え得るメニュー構成で、備えていく。

何度も通った所沢キャンパスの織田幹雄記念フィールドで、いつもの光景が広がったが、その「いつも」が、あの夏から本当に変わったのか。

そんな事を考えながら集合ミーティングを待った。

「再開」という区切りに、注目していたことがあった。

暑さが増していった昨年8月9日だった。

この連載を始めるにあたり、初めて練習を見学させてもらった日だ。

設定ペースから遅れ、離脱者が増えていく選手たちのトラック練習を見つめた花田の顔は険しかった。

「しっかりやってきた選手と、やってこなかった選手の差が明白ですよね」

記者にそう話しかけながら、いま振り返れば、その後の取材で何度も聞くことになる「自主性」のほころびを直視しているようだった。

その日は、トラックシーズンを終えた各自が5日間の夏のオフ期を終えて集まる、全体練習の再開日だった。

地元に帰った者、寮に残った者。選択はそれぞれに任されたが、与えられたメニューがない中で、どのように過ごしてきたかは、記録が顕著に示していた。

それ以降、「設定ペース」の確実性において信頼を得ていく花田流は、まだ個々の走力、状態などを把握する蓄積が浅かったこの時点の練習でも、その見極めとして有用に選別を下していた。

時に才能は、怠惰を隠す。

早稲田にスポーツ推薦で入ってくる者は少数とは言え、やはり同世代では抜けた存在になる。その上で、選手に任された範囲で手を抜かずに続けられるか。

それが例えば、帰郷で試される。

「ごまかしきれなかったですね。本当に走ってなかった選手は、この暑さで。いつもならごまかせるんですけど」

練習後、そんな声を聞いた。

ごまかす? その表現が気になった。そこが取材の出発点にもなった。

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。