【箱根駅伝2023あえぐ名門〈9〉】エースから「感謝」のタスキ/3,4,5区

早稲田大学競走部は、47回連続92度目となる箱根駅伝を総合6位で終えた。6月に就任したOBの五輪ランナー花田勝彦監督のもと、選手たちの奮闘を夏から密着してきた大型連載の第9回は、往路の3、4、5区にフォーカスする。井川龍人(4年)、佐藤航希(3年)、伊藤大志(2年)、上位戦線に浮上し、芦ノ湖のゴールまでの戦いを記す。(敬称略)

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【最後に動く往路順位グラフとメンバー表】

瀬古さんのダメ出しを受けた夏を経て

14位で渡されたタスキにも、井川は動じていなかった。

なすべきことは1つ。

「やっぱり、早稲田のエースとして1年間やってきて、個人としては結果で示してチームを引っ張らないといけないなと思っていた。後輩の選手たちを勢いつけたい」

冗舌に諭すタイプではない。背中で語る、という事を考えるタイプでもない。ただ、最上級生、そして昨年の箱根1区で16位と低迷し、シード落ちの起因を作ってしまった責任感は、誰よりも内々に感じていた。

OBの瀬古利彦からの「駄目だし」を受けていた夏があった。

新潟・妙高高原での夏合宿の2日目、起伏に富む山道での30キロ走の中盤で、10人の集団から後れそうなった。

その夜の全体ミーティング。

瀬古は言った。

「井川、なんだ、あの情けない走りは。お前が頑張らないとだめなんだ!」

名指しは期待、愛情の裏返し。その後も練習を見に来る度に声をかけられた。

何より、その時の練習でのひと言が心を震わせた。

「夏とは別人だな。絞れてきた」

調子はまだ十分に上がってきてはいなかった。ただ、うれしかった。

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。