【箱根駅伝2023あえぐ名門〈10〉】「胡桃」に例え、未来を託した主将/6,7区

早稲田大学競走部は、47回連続92度目となる箱根駅伝を総合6位で終えた。6月に就任したOBの五輪ランナー花田勝彦監督のもと、選手たちの奮闘を夏から密着してきた大型連載の第10回は、復路の6、7区を迎える。往路5位からの後半戦。北村光(3年)の山下りに始まり、主将の鈴木創士(4年)へと臙脂(えんじ)色の襷はつながった。(敬称略)

陸上

【最後に動く順位グラフとメンバー表】

復路スタート 2分20秒差3位青学、23秒差4位国学院を追う

気温はようやく氷点下から0度を越えようとしていた。

芦ノ湖湖畔に設けられたスタート地点に、続々と各校のランナーが集まってくる。

北村の気持ちも段々と熱くなってきた。

「順位を上げるのが役割だな」

往路を5人の仲間がつないできたタスキは、5位で箱根の山麓に届いていた。

4位の国学院大と23秒差。ターゲットは届く距離にいる。

勝負できる確信が、少しの緊張を生んだ。

午前8時。

3冠を狙う1位の駒沢大が出発してから4分23秒後、続けて2位の中央大、そして3位の青山学院大が2分20秒先に駆けだしていった。

国学院大が走りだし、いよいよ。腕のストップウオッチを押して計測開始。その時はまさか、フレッシュグリーンのユニホームを視界に捉えることになるとは思ってもいなかった。

2年ぶりの箱根で区間3位の力走を見せた6区北村

2年ぶりの箱根で区間3位の力走を見せた6区北村

鬼門の山区間、スペシャリスト抱えられぬ事情

最高地点の標高873メートルまでの約800メートルを、登って下りる5区と6区。

早稲田にとっては、歓迎すべき区間ではなかった。

最後に総合優勝を飾った2011年の翌2012年からの11大会。

5区で順位を上げたのは3回、特にこの4年間は区間順位で10番以下が続き、前日2日に伊藤大志が区間6位で順位を上げたのが5年ぶりだった。

6区も劣勢は同じだった。

順位を上げたのは同じく3回のみ。区間順位で1桁は4回。

山を走るために入学し、1年間を費やす。そんな自発的スペシャリストを抱える余裕があるのは、豊富な部員数を抱える強豪校だけだ。

翻って少数精鋭の早稲田には、その人材はいない。

「山の神」柏原竜二の登場以降、この10年は特に各校の注力著しく、その他の8区間の行方を大きく左右する特殊区間になった。「山」の重要性が増すほど、優勝から遠のいている。

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スポーツ

阿部健吾Kengo Abe

2008年入社後にスポーツ部(野球以外を担当します)に配属されて15年目。異動ゼロは社内でも珍種です。
どっこい、多様な競技を取材してきた強みを生かし、選手のすごみを横断的に、“特種”な記事を書きたいと奮闘してます。
ツイッターは@KengoAbe_nikkan。二児の父です。