ギラン・バレー症候群からの生還、相撲字がつないだ縁/三役格行司・式守勘太夫〈上〉
ギラン・バレー症候群を乗り越えた大相撲の行司がいます。
三役格行司の式守勘太夫(56=朝日山)は、2017年に病に倒れました。5場所連続休場の末、必死のリハビリで土俵に戻りました。
絶望の中、復帰への気力を高めたのは、相撲字がつないだ縁でした。
大相撲
◆式守勘太夫(しきもり・かんだゆう)本名・菊池浩。1968年(昭和43年)11月15日、東京生まれ。中学卒業後の1984年4月に日本相撲協会に採用され、同年夏場所初土俵。これまで式守国浩、式守錦之助、式守与太夫、式守与之吉を名乗り、2019年夏場所から12代式守勘太夫を襲名。昨年12月23日付けで三役格に昇進した。家族は妻と2男。
出番前に飲む1錠の薬
春場所を控え、大阪入りする前のこと。勘太夫にインタビューの時間を取ってもらった。
東京・豊島区のファミリーレストランで待ち合わせ。約束の10分前に到着した勘太夫は、私にLINEで連絡をくれた。
入り口に近い下座のイスに座り、何も注文せずに待っていてくれた。
病気のことは、これまで何度か聞いたことがある。
デリケートな問題でもある。
取材してもいいのか、書いてもいいのか、お断りを入れた上で、あらためて詳細を聞かせてもらった。
ギラン・バレー症候群の発症から、7年2カ月が経過した。土俵の所作を見る限りでは、何の問題もなく見える。
そう見えるだけで、勘太夫はまだ病気と付き合い続けていた。
「ちょっと今でも、こんな感じですよ」
こう言って、左右の手のひらを広げて見せてくれた。
手は、小刻みに震えている。震えは止まらない。
「まだ月に1度は、医者に行って、薬を処方してもらって、手の震えをみてもらってます」
説明する顔に悲壮感はない。
すべてを受け入れ、取り繕うこともないから、語り口調は穏やかだ。
土俵に立つ本場所中は、出番前に薬を飲む。
復帰当初は2種類だった錠剤が、今は1つに減った。
出番を逆算し、1時間前に1粒を服用する。薬が効き始めると、3、4時間は震えが止まるという。
とはいえ、緊張を伴って震えることもある。
「病気になってからなんですけど、左の手でちょっとこう袴(はかま)をつまんでいるんですよね。そうしないと目立っちゃうんで、つまんでグッと抑えている感じなんですよ」
それでも仕事は一流だ。
例えば今年1月の初場所5日目の翔猿-宇良、13日目の霧島-高安。2番とも際どい土俵際。勘太夫は自信をもって、軍配を上げた。物言いがついたが、どちらも行司軍配通り。
「負けを見て、勝ちに上げる。基本通りです」
勘太夫の目に狂いはなかった。
突然の発症 ギラン・バレー症候群
今でも、病室の天井しか見ることができなかった当時のことは忘れられない。
ギラン・バレー症候群を発症したのは、2017年12月―。
冬巡業中のことだった。勘太夫は当時、幕内格行司で「式守与之吉(しきもり・よのきち)」を名乗っていた。
12月7日、大分県宇佐市での巡業を終え、宮崎市へ移動。翌日に備えてホテルに入ると、違和感を覚えた。
体が重く、だるい。
知人の鍼灸(しんきゅう)師に電話で相談すると、神経内科を受診することを勧められた。
明日も調子が悪かったら、朝から病院に行こう。そう決めて眠ったが、目覚めると、ベッドから起き上がれなくなっていた。
顔も洗えず、着替えることもできない。
巡業の会場は、ホテルの目の前だった。
体を引きずるようにして、宮崎市総合体育館に入った。近くの神経内科に電話を入れ、症状を伝えた。
すると、聞き慣れない横文字を言われた。
「あ、それはギラン・バレー症候群ですよ」
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1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。
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