新年あけましておめでとうございます。2020年を最後にJリーガーを引退すると決めた僕の昨年のスタートはけがで始まりました。そして、その数カ月後、目に見えない敵に襲われました。コロナウイルスが全世界に脅威をもたらし、人々の生活は大きな大きな変化を強いられました。チームの練習も中断され、Jリーガーラストイヤーを歩む僕にとっては不安といら立ちが混ざり合うスタートでした。

それでも僕は覚悟を決めていました。これでJリーグが中止になっても2020年を最後にすると。そこから僕の1分1秒はかけがえのない時間へと変わりました。

コロナウイルスは人の弱いところを突いてきます。高齢者や疾患のある人に容赦なく襲いかかり、社会の中で苦しんでいる人にも経済的なダメージを与えました。そして、2021年を迎えてもその脅威は落ち着くどころか増すばかりです。

来年のJリーグクラブも今年同様、PCR検査に始まるシーズンになると思います。そんな苦しい時代を生き抜いていかなければならない僕は今、何を思い何を行動するべきなのかを考えてみました。

僕たちはサバイバーの子孫です。僕の祖母は今年の4月で101歳になります。戦時中を生き抜いた、紛れもないサバイバーです。多くの人が命を落とし、その遺伝子が受け継がれることなく途絶えた人たちが多くいます。そんな中でも生き抜いた祖母たちがつないでくれた命が今を生かしてくれています。そんな僕らもサバイバーです。その遺伝子を受け継ぎ、そのつないでくれた命を必死に生きているからです。

日本人よ、目を覚ませ!! 僕らはコロナを言い訳にまだ何も成す前に諦めてはいないだろうか。まだ何がどうなるかわからない世の中が目の前にある。でも、どうだろうか。世の中は停滞感と喪失感、そして閉塞(へいそく)感いっぱいの世の中となっている。人の不幸を喜び、ここぞとばかりに人の失敗をたたく。僕らにそんな時間は残されているのだろうか。人の失敗をたたくより、人の足を引っ張るより、自分より平均点の低い人を見て優越感に浸ったり…そこに一体何の価値があるというのだろうか。

僕らは今、大きな大きな試練と向き合っている。今こそ手を取り合い、助け合い、支え合うべきタイミングなのではないだろうか。僕のJリーガー人生は2020年で終わりました。ここからは格闘家として僕の人生に必要な道を切り開いていきます。まだ何も終わっていない。僕らには夢を追いかけ、絶望を希望に変える力がある。それを大人が諦めてしまっては、誰が明るい未来を作るのだろうか。

僕にとっての格闘家は、社会にファイティングポーズを取るために必要なものです。徹底的に身体を鍛え上げて、43歳の男が戦う姿を見せ続けます。勝つことが目的ではなく、戦う姿を見せることが目的なんです。僕ら大人がこの時代を見て見ぬふりをすれば、子どもたちの待つ未来に光はともりません。日本の首相をはじめ、大組織のトップの中には自分の任期さえ全うできればいいと思っている人もいる。逃げ切れる世代に日本の将来を任せれば、僕らが手にしたバトンには沈没した日本しか残されません。

逃げ切り世代から見て見ぬふり世代にならないよう、僕は社会にファイティングポーズを取り続けます。社会という名のリングに立って、頑張っている人がバカにされてしまう社会を殴り倒します。言い訳をせず、現実を見つめて、100年後の日本が互いを助け合う社会になるように挑戦者であり続けます。

お金持ち、そしてフォロワー持ちがすごいとされる時代は終わり、半径3メートル以内の人に愛される人が勝ち残る時代になります。2021年は人生最大の危機感と好奇心を持って挑み続けます。戦わない格闘家がリングの上で勝利するとはどういうことなのかを証明する1年にします。

誰も想像できない2021年が始まりますが、何かを諦めることは忘れて、想像をはるかかなたへ飛ばし、最高に大人たちが躍動する1年にしましょう。おっさん万歳! (ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)◆ 1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結ぶも開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退したが17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月にJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年シーズンをもって現役を引退した。175センチ、74キロ。

Jリーガーから格闘家へ転身後の初練習で汗を流す安彦
Jリーガーから格闘家へ転身後の初練習で汗を流す安彦