これまでファイナンシャルフェアプレー(以下FFP)の導入が及ぼしている影響についてお話しさせていただきましたが今回は少し目線を変えてクラブが行っているファイナンス面の対策について見ていきたいと思います。

まずクラブの収入内訳を見てみたいと思います。放送権による収入、スポンサー収入をメインにチケット収入を中心としたイベント収入、グッズの収入もあります。そして時にカップ戦やリーグ戦の賞金なども考えられます。

しかし支出面でいくと、人件費(多額の選手の給与)が50%近くを占め、ヨーロッパでは約半数近いクラブが赤字経営を強いられているという話もあるぐらい厳しい状況です。

そのような中で日本の市場ではあまり目にできない項目で、選手の移籍売却収入というものがあります。

この選手の移籍売却収入は大きく3種類に分かれます。

(1) 外部クラブから獲得した選手を売却する場合

(2) 下部組織育ちの選手をトップ契約した後に売却する場合

(3) 下部組織育ちの選手をトップ契約せずに売却する場合


この3種の中で一番わかりやすいものは1つ目の外部から獲得した選手を売却する場合です。意外とプラスになっていないケースもあり、ティエリ・アンリにバルサが支払った移籍金は2400万ユーロ(当時の金額で約40億円)でしたが、バルサを出る時は0円でしたのでこの場合は移籍金だけで見るとマイナスです。

目立たずして利益を創出しているケースが2つ目です。下部組織で十分な力をつけさせ、一度トップチームと契約をし、その後売却します。この場合は移籍金と契約破棄金が発生しますので、契約金<移籍金・契約破棄金とすることでクラブは売却益を出すことが可能になります。

しかしこの場合は購入する側から見ると契約する前に手にしたいというのが本音でしょう。タイミング含めて非常に難しさがあるように感じますが育成費用として見ることもでき、オープンマーケットであるヨーロッパではビジネスとして頻繁に行われています。

今回一番注目すべきは3つ目の「下部組織で育てて、トップチームで契約しないで売却する」ケースです。これは下部組織で育てたけれども上には上がることができなかった選手ということになりますが、実はこの売却益はそのままチームの利益になり、世界有数の下部組織をもつバルセロナなどは1選手に10億円を超える金額がつくことも珍しくありません。

下部組織の運営に目を向けると、ヨーロッパのトップクラブは給与を支払う代わりに生活を保証する形がほとんどです。その中で毎年1、2人、トップ契約することができるかどうかという世界。それを考えると、上がることができない選手の売却益はクラブ運営においては無視することはできません。

さらに、そのクラブ出身であることは生涯選手の胸に刻まれるだけでなく、育ったところで最後は選手生活を終えたい心理が働くこともあり、クラブにとってみれば頑張ってこいよと背中を押すことにもつながります。

これをうまく利用しているのがまさにバルセロナです。トップクラブは多額な金額で選手を購入していることに目が行きますが、その一方、目に見えないところで下部育ちの選手は数十億円という金額で売却されています。

レアル・マドリードがC・ロナウドを売却したのは理由がありました。「売れるうちに売る」ということです。同様にクラブの下部組織出身であったグティやラウルも、クラブ運営上の売却益を考えると0円で出ていかれるほどきついものはないという考え方になります。

そして鍵となるのはそれが何よりもクラブのためになるという部分を理解していることです。“クラブのためになる“ことを考えた場合、メッシも値段が付いているうちに売却される可能性は高いと考えてもおかしくはないでしょう。この1月に離れることは考えにくいですが、売却タイミングがどこになるのかは注目度が高くなります。

さて、次回は1月の移籍マーケットの最新情報とFFPに絡めた形での特徴的な移籍形態について注目してみたいと思います。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)