1月の移籍市場が開いたヨーロッパで、注目度NO.1はパリサンジェルマン(PSG)のフランス代表のエムバペ選手です。

現時点ではPSGとの契約があり、移籍先とされるチームはPSGに違約金を支払う必要があり、その金額は天文学的な数字が提示されているとされています。現実的なのは契約が切れる夏にフリートランスファー、つまり移籍金がかからない状態で移籍することですが、多くのクラブが働きかけている状況です。最終的には選手側がどうしたいかになると推測されますが、PSGはメッシに続き看板選手が引き抜かれてしまうことでファンからの信頼は揺らいだ上、来場者減の可能性からユニフォームやグッズ、チケットの売り上げが鈍るだけでなく、スポンサーの撤退なども可能性として考えられます。考えられるもう一つの動きは、リーグとしての放映権の値付けがうまくいかなくなる可能性です。値付けどころか販売そのものに影響する事態を招きかねない事であることから、リーグとしてもなんとかしたいところと思われます。ところがリーグという視点で見てみると、フランスリーグが国内の1チームに肩入れすることはできませんので、肖像権や放映権の売上が鈍ることに対して正直なところ手の打ちようはありません。リーグはその時に在籍する選手で商売していかなければならず、この部分に対しては非常に難しさを感じる部分でもあります。

その中で一つ新しい手法が生まれたのがスペインリーグのスーペル・コパの海外戦略。リーガはテバス会長就任後海外戦略を積極的に取り入れており、これを参考にスペインサッカー協会主導でスーペル・コパも18−19シーズンからサウジアラビア開催にしました(この時開催権利に対して入札制度を利用して競売にかけ、できるだけ高い値段を出させることに成功したのは有名な話です)。このように自国開催の大会を外部に切り売りすることで国内企業しかスポンサーがついていなかったとされた大会を一気にマネタイズさせることに成功。主催はスペインサッカー連盟になりますが、サウジアラビア政府から1大会ごとに4000万ユーロ(約64億円)とも言われる大きな金額を開催権利ということで受託することに成功しました。そのうち1000万ユーロ(約16億円)を協会の取り分とし、残りの3000万ユーロ(約48億円)を参加4チームで分配することになりました(この配分を決定する際にジェラール・ピケの所属する投資会社が何故か仲介に入っており、ピケがまだ現役だったことから物議を催しました)。このように、以前はスケジュール過密化によって主力選手が一部出場しない、スポンサーが付きにくい、放映権が売れない、チケット販売が伸びないなど様々なネガティブ要素が付き纏っていた大会を国外に出すことによって一気にマネタイズすることに成功した近年の良い事例となりました。

今回のフランスリーグの件に重ねると、リーグ戦そのものの話になるわけで、なかなかスペインのスーペルコパとは重ねることができませんが、スーパースター流出によるマイナス面はどの国においても大きな課題です。リーガにおいてもこの10年強の年月を牽引してきたメッシ・ロナウドと言った2大スターが抜けました。一つ時代が終わったといっても過言ではありません。しかしレアルはヴィニシウスやベリンガムといった新しい看板選手が台頭。バルサもペドリやヤマルといった看板選手になり得る若き才能が出てきてはいます。イングランドを見てみてもマンチェスターシティのユース年代は各カテゴリーにおいてタイトルを総舐めにしています。そういった次世代の戦略がPSGにどこまであるのか、これがもしかしたら突破口になるのかもしれません。サウジアラビアなどの中東も同様で、トップチームの強化も大切ですが、下部組織を整えることが次世代の成長・台頭につながることを考えると、日本サッカーの近年の活躍はこのようなベースメントがあっての事なのかもしれません。アカデミーの活躍度をみてみるのもヨーロッパサッカーの楽しみ方の一つになるかもしれません。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)