ゴール裏の撮影ゾーンでカメラを構える。ピッチレベルで間近に見るゴール前の攻防は、本当に迫力満点だ。スタンドの記者席から見るサッカーとは、まったく異なる景色になる。選手の声だけでなく息遣い、体をぶつけ合う音、闘う男たちの真剣なまなざしまで分かる。

サッカーは格闘技-。ずいぶん昔からよく言われるフレーズだが、あらためてそう思う。

関東大学サッカーリーグに、ゴール前で格別強い存在感を発揮する選手がいる。早稲田大FW加藤拓己(3年=山梨学院高)。とにかくパワフルで野性的。その躍動感あふれる姿から目が離せなくなる。

■ゴール対角へ圧巻のゴール

早大の大黒柱となるFW加藤(左)。右はMF田中(右)
早大の大黒柱となるFW加藤(左)。右はMF田中(右)

10月31日、東京・味の素フィールド西が丘での国士舘大戦。身長180センチ、体重83キロ、上半身が筋肉で盛り上がった体はラガーマンさながら。背番号10、えんじ色の戦闘服を身にまとい最前線に立っていた。

国士舘大の大柄で屈強なセンターバック、190センチのソ・ヨハン(4年=駒大苫小牧高)、181センチの谷口栄斗(3年=東京Vユース)に対し、空中戦で体をぶつけ合う。地上戦では俊敏な動きで相手マークを外し、力強いドリブルでゴールへ向かう。逆に相手ボールとなれば、前線から素早いプレスバックに走り、身を挺した豪快なスライディングタックルで相手ボールをはじく。走れる重戦車。何より仲間を鼓舞し、最前線からチームを勇気づける。あふれんばかりのエネルギーはピッチ上で際立っていた。

前半27分、その加藤が個の力でゴールをこじ開けた。MF田中雄大(3年=桐光学園)からのグラウンダーの縦パスに、相手選手に強く体を当てて受けると、パワフルなドリブルでペナルティーエリア右へとボールを持ち出し、右足を鋭く振った。ゴール対角の左上へ、強烈なシュートが決まった。

その得点の3分前にも同じような形でシュートに持ち込んでいたが、低く打ったシュートは前へ飛び出してきたGKにブロックされた。同じ轍は踏まず、今度は思い切りのいいシュートをゴールの上部へと決めた。冷静な判断力と正確な技術で奪った、鮮やかな一撃だった。

試合は加藤の先制点で主導権を握った早大が、後半にも相手のオウンゴールで1点を追加し、危なげなく2-0で勝った。首位の明治大を勝ち点1差で追走する2位。加藤は今季リーグ戦13試合に出場し、2位タイの8得点、加えてアシストもリーグ4位の5と、好調のチームを大黒柱として牽引している。

■ミルコ対ヒョードル戦に衝撃

躍動感あふれる動きの早大FW加藤
躍動感あふれる動きの早大FW加藤

試合後、加藤に話を聞いた。ゴールという結果は出した。だが、口から出てくる言葉は反省の弁ばかりだった。

「最初の1発目を決め切るとか、クロスでキーパーに捕られたところをもう1つ前に入ってくるとか、もっとやっていかなきゃいけないことがあった。あの1点だけが評価されるのは違うかなと思います」

最前線に仁王立ちし後方に10人を従える様は、まるで決闘に臨む大将だった。

「サッカーは戦(いくさ)というか、闘いですから。そんなきれいなスポーツじゃないし、もちろん外から見ればきれいなスポーツに見えますが、(ピッチの)中の同じ目線から見れば、そんな簡単なスポーツじゃないので。1つ自分が油断をしてしまえば、相手にガツンといかれてケガをしてしまいますし、そういう部分では本当に球のある格闘技だと思います。それは小さい頃から変わらない」

野性味にあふれる風貌、愛称は「ゴリ」。「ゴリラをかわいくして、ゴリです」と笑う。中学時代は鹿島アントラーズつくばジュニアユースでサッカーに打ち込む傍らで、学校の柔道部にも所属したという。

「格闘技がすごい好きで、ミルコ・クロコップとヒョードルの試合を見て本当にやばいなと。人間って狂うと、ここまでやるんだなと思った。それから日本の格闘技もいろいろ見させてもらったりしていく中で、闘いって本当にこういうものだなと思ったし、それはサッカーも同じ。相手と接触するスポーツは絶対に通じる部分なので、そこは格闘だと思います」

■ケガで大学2年から正式入部

得点を決め、仲間と喜ぶ早大加藤
得点を決め、仲間と喜ぶ早大加藤

ならば、闘いに臨む上で大事な心構えって何なのか? そう問うと、迷わずこう返ってきた。

「まず一番は気持ちで絶対に負けないこと。例えば今日も相手(国士舘大)のヨハンがすごい大きかった(190センチ)ですけど、そこに怯(ひる)んで競り合いに挑まないとか、それは絶対に違う。それを逃げて何になるのか? と考えた時に絶対に何もならない。だからゴールキックもずっとヨハンと勝負させてもらった。相手をリスペクトした上で、やっぱり闘いの場において、オレはあの選手よりも弱いだとか、オレはあの選手を抜くことができないとか、あの選手から点数を取ることができないとか思っていたら、絶対に点数は取れない。だから、そこだけはなくしたくない。試合前に思い切り顔をこうたたいて、気合入れていったりとか。本当にそういう部分を意識しています」

紆余(うよ)曲折を経て今がある。山梨学院高時代から各世代別の日本代表に名を連ねた。だが早大入学前の2月、長年痛めたままだった手首の手術を受け、続く5月には左足首を骨折。スポーツ推薦で入学したが、丸々1年ボールを蹴ることができなかった。2年生になった昨年5月、入部の条件となるランテストをクリアし、ようやく正式入部を果たした。そんな挫折経験がエネルギーとなっている。

「変わりましたね。考え方すべて。サッカーがない自分に何の価値があるのか、っていうのを考え直すきっかけになりました。ケガをした選手、ケガをしている選手のために戦うってどういうことなのか、とか感じるようになりましたし。今までピッチの中で見えなかったピッチ外の部分、今なら運営、マネジメントの部分の素晴らしさというところがあって気づけたと思います。それを気づかせてくれた環境や、組織。非常に大きかったなという部分があります」

■「スケールが大きく、規格外」

山梨学院大高3年の全国選手権1回戦・米子北戦で得点し、喜ぶ加藤(2017年12月31日)
山梨学院大高3年の全国選手権1回戦・米子北戦で得点し、喜ぶ加藤(2017年12月31日)

早大を率いるのは、ベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)、横浜F・マリノスなどで活躍した元Jリーガー、外池大亮(だいすけ)監督。10年もプロで戦った外池監督は「スケールが大きくて、規格外」と加藤について答えた。具体的に何が規格外なのか?

「1つはパーソナリティーの部分がいいというか、感受性の強い子なので。選手を巻き込んだりとか、選手に対して自分の動きがとか、発言がとか、自分の立ち居振る舞いでみんなを元気にさせられる。それによって自分のパワーに替えていく。そういったところがあります」

ビジネスマンとしても活躍している外池監督は、さらにこう続けた。

「ここっていう時のパワーの発揮のしどころとか、最近のFWの選手って守備に頑張って最後で力尽きちゃう子って多いんですけど。この日もあの状態で、あの位置から、しっかり逆サイドの高いところへシュートを入れられる力はフィジカル的にも高い。人間性の部分も相まって、今の好調なチームの中で引っ張っているのは加藤だと思います。なかなか前線の選手は使われる選手が多い中で、まさに顔で引っ張っていけるというか。試合以外でもトレーニング中でも彼の1つの個性というか、そういったものが引き出せていると思う。そこまで彼は立体的に(考えている)というか。実際、彼は今後プロに行くと思うので、そういう中でどう生き抜いていくか、どうやっていろんなものを力に変えていくのか、と考えられる。すごく能力が高いなと思います」

雄弁なその口ぶりには、加藤のすごさを知る者としての実感がこもっていた。

■感受性の強さと立体的思考

中盤に多くのタレントがあふれる日本サッカーにあって、これだけチームの前面に出るストライカーは珍しい。見た目の通りのフィジカルモンスターだが、むしろ「感受性が強い」「立体的に考えられる」という評こそ、加藤というストライカーの“成分”なのではなかろうか。

挫折を味わった。だが同時に良き仲間、良き指導者に恵まれた。その数の分だけ多くの思いを背負って前を向く。だからどこまでも体を張り、頑張れる。そこは感受性の強さが作用しているのであろう。加えて思考力。点と点の情報をつなげるだけの平面的な知識に終わらず、そこからどう物事を解決するのか、ゴールに向けて自ら立体的に組み上げていく手立てを身に付けた。

そして何より、サッカーという軸でなく、ピッチの外、社会という大きな軸からサッカーを考えられるようになれた。座学と実践の場を持つ大学サッカーという環境も合ったのだろう。サッカーをあきらめてもおかしくない状況から立ち上がり、より大きな選手へと羽ばたこうとしている。

ゴールに向かう迫力あるプレーは、その生きざまを示している。ピッチレベルから見つめた光景は、そんな考えへとたどりついた。

【佐藤隆志】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)