「肥満でポッチャリした子でした」。かつてニュージーランドでもプレーした元サッカー選手の木村哲昌さんが、そう教えてくれた。国を背負う英雄の今とはちょっと結びつかない。
それは誰か? ニュージーランド主将のFWクリス・ウッド(34=ノッティンガム・フォレスト)。代表通算91試合45得点はどちらも同国史上最多。10年南アフリカ大会に20歳で出場し、3大会のブランクを経て今回の北中米大会に出場している。プレミアリーグ通の方なら分かるだろう。
木村さんはそのウッドとの小学生時代を知っていた。90年代後半に市原でプレーしたニュージーランドのレジェンド、ウィントン・ルーファーが母国で立ち上げたサッカースクール「ウィナーズ(WYNERS)」に在籍していた。木村さんはそこを手伝っていた。
「小学校5、6年生だったと思いますけど、自分はまだ現役だったので一緒にプレーもしました。その時は本当にポストプレーがうまくて、体を張って(攻撃の)起点になる選手だった。得点もいっぱい取っていた」。アカデミーの中学年代には現J2新潟の舞行龍ジェームズもいた。さらに興味深いことを口にしてくれた。「190センチもあってすごい骨格をしていますけど、昔は肥満でぽっちゃりしてた。お母さんもすげぇ体が大きかった」。
アスリートの運動能力を探る遺伝子(DNA)研究は進んでいる。さまざまなことが解明されている中で、唯一の母系遺伝がある。それはエネルギー代謝の「ミトコンドリアDNA」。細胞の発電所とも呼ばれ、持久力や疲労回復など運動パフォーマンスを高めるものだ。これは母親からしか受け継がれない。ウッドは強い体に加え、献身的に走れる。プレーの根幹となるものは、母親からのギフトだということだ。
米国のスポーツ専門メディア「The Athletic」の6年前の記事に、ウッド母子が紹介されていた。それによると、ウェストブロミッチのユースに入団するため父と妹を残し、2人で英国へ渡った。半年の予定が滞在は2年半にも及んだという。クリスがトップチームに上がるまで、母のジュリーさんはオンボロ車のハンドルを握り相当な距離を走った。「下手くそ」と叫ぶ観客がいれば、出向いて言い返したこともあった。なかなかの肝っ玉かあちゃんぶりだが、そこには深い絆と愛情がにじんでいる。
W杯を戦う英雄たちには誰しも「かあちゃん」がいる。ここまで支えてくれた歳月を振り返れば、屈強な男たちも頭が上がらない。【佐藤隆志】



