ヴィッセル神戸のFW田中順也(30)は、シーズン終盤でも貪欲に高みを目指している。4月26日ルヴァン杯サンフレッチェ広島戦(ノエスタ)で移籍後初ゴールを含む2得点を挙げたが、リーグ戦では無得点が続いた。「間違いなく焦りはあった。こんなに時間かかったのも初めて」。待望のリーグ初得点は、9月16日北海道コンサドーレ札幌戦(神戸ユ)。前半4分、FWルーカス・ポドルスキ(32)のシュートのこぼれ球を押し込み、先制点を決めた。「やっと大きな1歩を踏みだせた。この流れを忘れないようにしたい。数字を出すためにここ(神戸)に来たんで、今から取り返せるように頑張りたい。ネルシーニョとのトレーニングは自分には合ってたし、感謝している」。安堵(あんど)の気持ちとともに、09~14年の柏レイソル時代にも指導を受けたネルシーニョ前監督(67)へ感謝の言葉を口にした。

 神戸にとって激動の夏が過ぎた。7月に元ドイツ代表FWポドルスキと元日本代表ハーフナー・マイク(30)が加入した一方で、8月にネルシーニョ監督がチームを去った。ヘッドコーチだった吉田孝行氏(40)が監督に就任してから約1カ月半。チームは第28節終了時点で10位ながら、公式戦は最近5試合負けなしで4勝1分けと好調だ。

 田中順は「ネルシーニョは『駆け引きに勝て』といつも言っていた。それが分かる人は分かるし、分からない人は分からない。(その理解度の差で)チームがばらついたのかな。今はタカさん(吉田監督)が細かく言葉にしてくれてるから、迷いなくチームがバランスを保てていると思う」と好調の要因を明かした。

 FWポドルスキの存在も大きい。当初は前線での得点量産を期待されたが、最近は1・5列目に下がり、攻撃の起点となることも多い。「クオリティーはルーカス(ポドルスキ)のおかげで上がってきた。『そんなミスするなんて、ふざけるな』という雰囲気を練習でも出してくる。やっぱり(試合での)駆け引きもうまいし、パサーにもなってくれる。しかもボールロストをほとんどしない」と感心しきり。だが、チームメートとして言うべきことは言う。「俺も『決めろよ』と言うし、逆に『お前はいつ決めるんだ』と言われることもある(笑い)。そういう関係性でいいと思う」。まだチームには世界的スター相手に1歩引いてしまう選手もいるが、田中順はチームメートとしての関係を築かれつつあるようだ。

 ルヴァン杯は準々決勝で敗退し、リーグ戦の優勝も消えた。狙えるタイトルは天皇杯だけだ。「とりあえず天皇杯。Jリーグも負けたくはないので、とりあえず残り全部勝つこと。個人的には流れの中から点を取りたいし、セットプレーではアシスト取りたい」。まだリーグ戦1得点。セットプレーではキッカーを務める田中順の目は、シーズンが終わる瞬間までゴールだけを見つめているはずだ。【中島万季】

 ◆中島万季(なかしま・まき)1988(昭63)年8月11日、鹿児島県薩摩川内市生まれ。高校野球やアメリカンフットボール、高校ラグビーなどを経験し、4月からサッカー担当。