淡々とした表情から発せられた言葉は、悔しさに満ちていた。「サッカーの神様は、まだ勝たせてくれないのか。こいつら(選手)は頑張っているのに。結果に反映できない」。J2アルビレックス新潟は26日のホーム福岡戦、0-3で敗れた。これで6連敗。試合後の会見、片渕浩一郎監督(43)は胸中を素直に言葉にした。

新潟は14年間在籍したJ1の座を明け渡し、今季は15年ぶりにJ2に参戦。1年での復帰を目指していたが、現状は残り12試合で勝ち点29の暫定19位。J1自動昇格圏の2位との勝ち点差は27、J1昇格プレーオフ進出圏の6位からは20。一方、J3降格圏の21位とは勝ち点3差。昇格どころか残留争いが現実だ。

磐田で優勝経験があり、今季就任した鈴木政一前監督(63)を7日に解任。ヘッドコーチだった片渕監督が暫定的に2試合指揮した後、22日に正式に監督に就任した。福岡戦は就任後の初戦だった。

新潟のシーズン途中の監督交代は3年連続。そのたびに、片渕監督が後を継いでいる。16年は吉田達磨監督辞任後、監督に就任して残り4試合を指揮した。昨年は三浦文丈監督辞任後、公式戦2試合で代行を務め、呂比須ワグナー監督につないだ。今回も当初は暫定指揮で、新監督へ引き継ぐ予定だった。だが、後任候補との交渉が不調に終わり、混迷したクラブ側が前監督解任から2週間後に就任を要請。3度目の登板になった。

J1復帰へは崖っぷち、迫るJ3降格の危機。それでも「任された仕事をやるだけ。こうなったのは鈴木さんの責任ではない。選手と、彼らを指導するスタッフの責任。それを挽回するチャンスをいただいた」と前向きだ。当面の任期は今季いっぱいで、来季は白紙。クラブ側からすれば「まずは目の前の勝ち星を」という切迫した思いでかじ取りを託したのだろう。ただ、どこか曖昧さが否めない。

片渕監督は鈴木前監督の路線継承を掲げている。前線からのプレスと奪ってからの速い攻め、球際の厳しさ。新潟の基盤になっている戦い方だ。短期間での大幅な変更はリスクが伴う。クラブがスムーズに采配を預けても不思議ではない。あるいは、外部から招聘(しょうへい)し、来季を見据えてまったく違うチームにする土台づくりに着手するのも方法だろう。その判断をはっきりしないまま、代行期間を経て、片渕監督を選択した感がある。

それでも現場の仕切りを任せられた片渕監督に迷いはない。現役時代の02年、鳥栖から新潟に移籍。シーズン後に現役を引退し、ユースのコーチに就任した。以後、下部組織の統括を務めるなど指導者としては新潟一筋。誰よりも新潟を知っている。愛着もある。

福岡戦の試合前、観客席のサポーターに向かってあいさつした。「皆さんのパワー、熱い応援を選手たちに届けてください」。求めるのはチームだけでなく、新潟を取り巻くすべてとの一体感。だから試合後は、結果で応えられなかった悔しさが募った。ただ、ふらついたクラブ側とは異なり、覚悟はできている。残り12試合。片渕監督にとっても大勝負になる。【斎藤慎一郎】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆斎藤慎一郎(さいとう・しんいちろう)1967年(昭42)生まれ、新潟県出身。15年9月から新潟版を担当。サッカー以外にはバスケットのBリーグ、Wリーグ、野球、アマスポーツなどを担当。