アジア杯のため日本代表がUAEに出発する前日の元旦、自宅のある広島で新年を迎えた森保一監督(50)は、初詣にと地元の神社に足を運んでいた。A代表の監督としてはアジア杯に南米選手権、W杯予選、五輪監督としては東京五輪1年前という、兼任監督にとっては勝負の年。かなえたい願いごとが多いだろうことは、想像に難くない。

それでも“神頼み”は一切しなかったという。おみくじも「怖いので、結果が。結構引きずりそうなんで(笑い)」と手に取らず、神社を後にした。

その理由が、偉大な“二刀流”の人物の心構えと重なっていた。「神様は敬いますけど、願い事、頼み事はしないように。格言に『神は敬えど頼らず』と、はい」。指揮官が引用した格言は、二刀流を駆使し、兵法書も記した剣豪の宮本武蔵が「神仏の意にかなうような心構えや日々の態度が重要である」と説いた「神仏を敬い、神仏に頼らず」と同意だった。

五輪監督を兼任するだけに、森保監督も宮本武蔵と同じ“二刀流”。もしや、武蔵が好きなのでは? そんな問いに、驚いたように目を見開いて首を左右に振った。「誰かから聞いた話だと思います。その時に感じたことを言っただけで…たまたまですね。二刀流? 宮本武蔵なんて、そんなそんな」と苦笑いした。だが、果たして偶然のひと言で片付けていいものか-。

その思いは、1月からUAEで開催されたアジア杯を1カ月間取材して強くなった。W杯ロシア大会で主力を張った経験豊富なメンバーに、MF堂安やDF冨安の東京五輪世代に、MF南野やMF遠藤らA代表の経験が浅い若手を融合。成熟度を深めながら6連勝で決勝まで勝ち進んだ。常に一喜一憂せず、ゴールを決めても両手を素早くたたくとすぐに、落ち着いた表情でメモを取っていた。喜怒哀楽は控えめで、冷静沈着にピッチ上の戦いを見守る様は、剣士のようなりりしさがあった。

最後はカタールに1-3で敗れ、就任後の無敗記録は11でストップ。11年大会以来2大会ぶりのアジア制覇も逃した。攻撃、守備、組織としての成熟度、選手起用など課題はある。だがこの大会はゴールではなく、森保ジャパンにとってのスタート。大事なのはこの大会の敗戦をどう受け止め、何を得て、3年後のW杯カタール大会へと続く道において、どんな次の1歩を踏み出すかだろうと思っている。

決勝後、森保監督は「監督としては、チームの選手やスタッフが最善の努力をしてくれたことを結果に結びつけることができず、もっと力を付けないといけないなという思いです」と絞り出した。悔恨の念を糧に鍛錬を重ね、無双を誇った武蔵のように“勝負の神様”が振り向くような心構えを備え、A代表と五輪代表の“二本の刀”を意のままにふるう-。ここから指揮官のそんな戦い様が見られるようになることを期待している。【浜本卓也】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆浜本卓也(はまもと・たくや)1977年(昭52)、大阪府生まれ。03年入社。プロ野球担当から、昨年12月にサッカー担当に復帰した。