3月1日の川崎フロンターレ対鹿島アントラーズ(等々力、1-1の引き分け)で試合後、鹿島の主将DF内田篤人(31)が、ブーイングする一部サポーターに食ってかかる場面があった。

試合後の内田の説明をまとめるとこんな感じだ。

◆(好内容だけに)今日の戦い方に関してああだこうだ言われるのは、ちょっと納得できなかった。

◆アウェーのサポーターが見ている中で自分たちのサポーターにブーイングされたら、『ああ、鹿島うまくいっていないんだな』と思われてもしょうがない。そこは隠してでも次に向かわなきゃ。1個レベルの高い話だけど、そういう関係性を築きたい。

確かに、試合内容はかなり良かった。直近の大分トリニータ戦(2月23日、1-2で敗戦)は内容も含めて惨敗だっただけに、王者川崎Fと好ゲームを展開できたことは、チームにとって明るい材料に見えた。内田が納得いかなかったのもよく分かる。

個人的には「1個上の関係性を築きたい」という発言の方が気になった。選手の口から「サポーターとの関係性を築く」という言葉が聞けるとは思わなかったからだ。選手はサポーターの声援を一方的に「受ける」のみで、その声援のベクトルをより効果的な方向に持っていく、などという発想はないものと思っていた。

◆「サポーターに認めてもらわないと、喜びってないんだよね」

川崎F対鹿島 サポーターへのあいさつを終え引き揚げる鹿島DF内田(撮影・横山健太)
川崎F対鹿島 サポーターへのあいさつを終え引き揚げる鹿島DF内田(撮影・横山健太)

後日、内田本人にあらためてあの場面の真意を聞いてみた。

内田 みんな若いのに頑張っているんだよね。その中でやっぱり、サポーターに認めてもらわないと、喜びってないんだよね、若い選手って特に。勝てなくてブーイングっていうのは分かる。そういう面がないと鹿島が強くならないし、そうやって強くなってきたんだと思う。強くなるためには厳しい目、引き分けでもブーイングされるくらいじゃないと、強くはならないって言うのは分かる。けど、あの状況で若い選手が頑張ったから、やっぱり、認めて欲しいというかね、チームが頑張ったっていうのは分かって欲しい。

「褒めて伸ばす」とでも言うのだろうか。サポーターの声援が選手にもたらす精神的満足度がいかに大きなものかを強調していた。

鹿島というクラブが常勝軍団と呼ばれるのは、常に勝利を求められているからだ、というのは、選手たちも理解している。それでも、いくら「勝って当然」のチームでも、頑張ったことは素直に褒めてほしいのだ。

サポーターもお金を払って試合を見に行っているのだから、勝てないとブーイングしたくなるのも当然だ。ただ、その思いを表現する方法は他にもある。厳しい言葉をかけることだけが「愛のムチ」ではない。時には、結果が全ての世界でプレッシャーと戦う選手たちだからこそ、優しく寄り添うことも必要なのかもしれない。

また、内田はこうも言った。

内田 サポーターの声がちゃんと届いて俺らに響いているよ、一方通行じゃないよ、っていうのは分かってもらえたら。勝っていようが負けていようが、ブーイングも喜ぶのも、選手とサポーター別っていうのがいちばん寂しい。一緒に戦っているんだから、いいときも悪いときもあるけど、それをちゃんと俺らも受け取っている。

試合当日も「平日アウェーに来てくれてありがたい」「本当に感謝している」と繰り返していた内田。選手とサポーターの幸福な関係性は、こうした小さな衝突を繰り返しながら築き上げられていくのだろう。【杉山理紗】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆杉山理紗(すぎやま・りさ)1993年(平5)10月4日生まれ、岐阜県出身。入社3年目、19年鹿島担当。リフティング最高記録4回。