新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、試合に負けずして「敗退」したチームがある。3月7日に開幕予定だった天皇杯の神奈川県代表決定戦「神奈川県サッカー選手権大会」(5月9日決勝)の1、2回戦が、新型コロナウイルスの影響で中止が決まり、準決勝進出チームが、抽選で決められた。モンテディオ山形、アビスパ福岡、横浜FCなどでプレーし「ジャンボ」の愛称で親しまれたFW大久保哲哉(40)が所属するFIFTY CLUB(神奈川県1部)は、抽選で涙をのんだ。

並んでランニングする横浜FC時代の大久保哲哉(右)とカズ(2017年1月23日撮影)
並んでランニングする横浜FC時代の大久保哲哉(右)とカズ(2017年1月23日撮影)

大久保の所属チームは、神奈川県社会人選手権で優勝し、天皇杯県代表決定戦の出場権を手にしていた。大久保は同大会で4試合3得点2アシストと優勝に貢献し、勢いに乗っていた。1回戦は、昨季の全日本大学選手権で準優勝した桐蔭横浜大との対戦だった。桐蔭横浜大は、川崎フロンターレDF山根視来、イサカ・ゼインらを輩出し、今季もJ注目選手を多く擁する優勝候補。注目のカードだった。

新型コロナウイルス感染拡大は広がり、4月に入り神奈川県を含む7都道府県で緊急事態宣言が発令され、試合は2度の延期の末に中止が決まった。抽選の結果、準決勝の組み合わせは「SC相模原(J3・シード)-エスペランサSC(関東2部・抽選)」「Y.S.C.C.横浜(J3・シード)-専修大(関東大学1部・抽選)」。準決勝進出の確率は4分の1だった。大久保の今年の天皇杯挑戦は、試合に負けることなく終わってしまった。

大久保は、クラブスタッフからの「抽選で負けてしまいました」とのメールで“敗退”を知った。「抽選負けは、人生で初めての経験です。結果をメールで知るというのも初めてという…。選手としてはやりたい気持ちは強かった。試合ができなかった分、不完全燃焼の感じはものすごく残りましたけど…。健康が第一。仕方ないです」と複雑な思いを口にした。

スポーツで勝敗を抽選で決めるといえば、全国高校ラグビーで見たことがある人が多いだろう。同点でトライ数も同じ場合、次戦に進むチームを抽選で決める。サッカーではPK戦がある。それだけに「高校ラグビーの抽選は残酷」と思っていた。だが、新型コロナウイルスは、サッカー界にも「抽選」の厳しい運命をもたらすことになった。

現在、緊急事態宣言が出された地域は、Jリーグも含め活動休止中だ。大久保も、通っているジムが使用できず、自宅で体幹や筋力トレーニングを続ける日々だという。リーグ戦は5月10日に開幕予定だが、先行きは不透明だ。「ランニングしようと思っても微妙な空気ですし…。ボールを使うのは、家の庭でリフティングするぐらいですね」。

大久保は、昨季からFIFTY CLUBでプロ生活を続けている。J1から数えれば「7部」にあたるカテゴリーだが、プロ選手としてのオファーを受け加入を決めた。昨季は18試合18得点で、リーグ得点王を手にした。相手が、1トップの大久保を抑えようと、チーム戦術を5バックに変えるなど、徹底して「大久保包囲網」を仕掛けてきたが、プロの意地を見せ、今季も40歳にして現役を続けている。

Jリーグでは通算99得点。再びJのカテゴリーでプレーし、100得点を達成する夢はあきらめてはいない。開幕時期が見えず、コンディション調整も難しい状況。天皇杯も不完全燃焼に終わったが「サッカー選手としてやる以上は1年でも長くやりたい。チームは今年は、関東2部リーグ昇格を目標にしている。そのためにも自分が点を取って、活路を見出したい」と、40歳で迎えるリーグ戦へと切り替えていた。このほど指導者のA級ライセンスを取得。昨年からテクニカルアドバイザーとして三浦学苑のサッカー部の育成・指導に携わるが、こちらも活動休止になっている。全選手の日常のトレーニング、生活を取り戻すためにも、新型コロナウイルスの1日も早い収束を願うばかりだ。【岩田千代巳】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「現場発」)