気になるデータだった。国際プロサッカー選手協会(FIFPro)は20日、新型コロナウイルスの影響でうつ病の症状を訴えるプロサッカー選手数が急激に増加していると報告。AP通信によると、FIFProの最高医療責任者となるビンセント・グートバージ氏は「どのクラブの医療スタッフも選手の健康を第一に考えているが、精神的健康が身体的健康と同じぐらい重要であることを示す客観的なデータだ」と警鐘を鳴らした。

コロナウイルス感染拡大のため、世界的に主要リーグの公式戦は中断し、選手たちは外出規制や自宅待機を続けている。FIFProはイングランド、フランス、オランダ、スコットランド、アイルランドの欧州をはじめ、オーストラリア、南アフリカなど加盟国の選手会の協力を得て都市封鎖などの抜本的な対策を続ける国の1602選手を調査。男子に13%、女子は22%にうつ病の症状が報告されたという。

この調査は男子1134人(平均年齢26歳)、女子468人(同23歳)とサンプルが多くない。医師による正式診断ではなく、選手本人の申告によるものだが、自宅待機や外出自粛という措置は我々にとっても社会的な孤立や将来への不安が募り、ストレスもたまる。プロ選手となれば、ランニングなどで外出する際も社会的な距離を取るなどの模範的な行動が求められ、世間からチェックされる立場にもなる。自宅待機も、外出時も精神的負担は一般人よりは大きい。

グートバージ氏は「家族やチームメートと関わらない時、社会的なサポートが低下する。公式戦再開の不確実性、サッカー界の将来的な不確実性もあり、メンタルヘルスの症状の発生率が高くなる可能性がある」と解説。クラブの医療チームに選手のためのメンタルヘルス専門家を配置することを強く勧めた。

FIFProによるデーデータが報告された20日には、ロシア1部ロコモティフ・モスクワのリザーブチーム、3部のガサンカでプレーしていた22歳のDFサモフバロフの急死が発表された。隔離生活を送り、自宅での個別トレーニング中に病気になったそうだ。死因は心不全とされ、自宅待機との因果関係は分かっていないものの、ガサンカのグリシン監督は「恐ろしいことだ」と衝撃を受けていた。

感染拡大で早くから外出規制を敷いてきた欧州に起こる問題は、日本にとって少し先の未来の出来事と言っていい。4月7日の緊急事態宣言から2週間が経過。これからメンタル的な問題が出てくるのだろう。欧州各国のロックダウン(都市封鎖)期間延長にように、日本の緊急事態宣言も延長されるならば、Jリーグのクラブでもメンタルケアの必要性も出るだろう。今から検討し、対策を始めても、いいのではないか。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「現場発」)

◆藤中栄二(ふじなか・えいじ)1970年(昭45)9月3日、長野・上田市生まれ。93年に入社し、サッカー、五輪、バトル、ゴルフなどを担当。20年1月から3度目のサッカー担当復帰。