5月5日は「こどもの日」。1948年に制定された国民の祝日で、子供の人格を重んじ、その幸福を願う日とされている。年に1度の大型連休、ゴールデンウイーク(GW)の一部でもあり、日付を聞けば多くの人がその日を答えられるのではないだろうか。

では、サッカー界的には何の日か。正解は「フットサルの日」。競技を5対5で行うことが理由で、一般社団法人日本記念日協会にも登録されている。

日本サッカー協会によると、「フットサル(Futsal)」とはスペイン語、ポルトガル語でサッカーを意味する「futbol」や「futebol」と、室内を意味する「salon」や「salao」が合わさってできた言葉。

そんなフットサルの本場スペインに、日本フットサル界の“キング”とも呼ばれる日本代表FP森岡薫(41)が初参戦している。今年1月、ペスカドーラ町田からスペイン・フットサル1部オ・パルーロへ移籍し、初の渡欧を果たした。

デビュー戦はサッカーでも世界的名門のバルセロナだったが、森岡は早速、初アシストを記録するなど遜色ないプレーを披露。スペイン語が堪能だったこともあり、順応は早かった。世界最高峰の舞台の感想を聞くと「後悔しました」と一言。一瞬、聞き間違えたかと思ったが、すぐに続けた。

「何でもっと早くここに来なかったんだと。練習も試合もレベルが高すぎて、楽しくて仕方がないです」

オ・パルーロが本拠を置くスペイン北西部の港町フェロルでは、サッカーの3部リーグに所属するラシン・フェロルよりもフットサル熱の方が高いといい、森岡は「地域密着で、地元愛がすごい」と目を丸くする。日本では3桁になることもある観客は常時2500~3000人が入り、会場を埋める。それだけでも心が高鳴る環境だ。

スペイン移籍に関しては、これまでも声がかかることはあった。しかし、当時は待遇面や当時所属していたクラブで結果を残すことを重要視していたといい、移籍にまでは至らず。そんな中でオ・パルーロからのオファーが届いた。「(移籍の)タイミングをなくしていたけど、まさかこの年齢でスペインでやるとは思っていなかった。ちょうど(W杯の)アジア予選やW杯にむけて、レベルの高いところでプレーしたいという気持ちでもあった」。迷わず荷物をまとめた。

スペインと日本の一番の違いには、選手1人1人のタイミングを挙げる。

「仕掛けるタイミング、パスを出すときのタイミング、DFとの駆け引き。日本でやっている時はタイミングより『ここに出さないと』っていうのが多かったけど、むこうは予測がつかない。日本だと相手が仕掛ける時は『中に入るな』とかわかっていましたが、全然わからなかった。自分も足元とかの技術の細かさでは負けていないと思いますけど、むこうの選手はリフティングできないけど、パスミスはしないとか。ミスの少なさは感じますね」

加えて、選手それぞれが持つ長所を最大限に生かしながらチームで戦う土壌が染みついていることも実感した。

「選手が余計なことをしないんですよね。自分の100%しかしない。わかりやすくいうと、運動量しかない選手は徹底的にそれをこなす。シュートは決められない、ラストパスもできないけど、ボールを奪って味方につなぐ選手。攻撃はうまくない、1対1も強くない。でも抜かれない選手とか。攻撃的な選手は、守備は劣っていても、ゴール前のチャンスは絶対に決める。スキルの高さがあって、五分五分のボールに死ぬ気でいく。体が小さいから弱いとかもないし、みんな芯がしっかりしていました」

充実した日々を送っていた矢先に新型コロナウイルスの感染拡大が襲い、リーグ戦は中断。代表活動でも2月下旬に開幕予定だったW杯予選も兼ねるAFCフットサル選手権が延期となり、9月開幕予定のW杯本大会開催も微妙な状況だ。日本にとっては、まさかのアジア予選敗退を喫して前回大会出場を逃したW杯には是が非でも戻らなければならない。国内リーグで輝き、代表の中心としても活躍してきた森岡の思いも当然強い。

「W杯に出るために自分にできることは全てしたいと思っています。4年前に何が足りなかったのかは分かっているつもりですし、それを課題として取り組んできました。今の代表の監督(ブルーノ・ガルシア)も言っていましたが『試練がたくさんある中でも、ひとつひとつクリアしていくことで強くなっていく』と。まさか直前にコロナという大きな壁がくるとは思っていなかったですけど、これもまた乗り越えなきゃいけないですね」

スペイン人では、現在Jリーグでプレーするサッカー界の世界的名手アンドレス・イニエスタも子供の頃はフットサルで技術を磨いたという。外出自粛要請の最中で迎えた2020年のゴールデンウイーク。本来であれば子供向けのフットサル大会なども各地で開催される予定だった。静かに過ぎた5月5日をかみしめ、フットサル日本代表に歓喜の日が来ることを切に願う。【松尾幸之介】

◆松尾幸之介(まつお・こうのすけ) 1992年(平4)5月14日、大分県大分市生まれ。中学、高校はサッカー部。中学時は陸上部の活動も行い、3年時に全国都道府県対抗男子駅伝競走大会やジュニアオリンピック男子800メートルなどに出場。大学では体育会フットサル部に所属。