横浜FCのFWカズ(三浦知良、54)が22日、大阪府内で実施した10日間の自主トレ合宿を打ち上げた。その最後の瞬間、ピッチ脇にいた、見覚えのある黄色のユニホームを着た選手が、数十人入ってきた。島根県の私立高、立正大淞南のサッカー部員だった。

引率の南健司監督(51)は真っ先にカズに駆け寄り、頭を下げた。選手も輪になって感謝の言葉を口にした。すると、カズから「記念写真を撮ろう」と提案された。最高の笑顔が並んだ。

立正大淞南で昨年8月、サッカー部を中心に最終的に100人を超える新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した。当時の記事を読み返すと、無関係の同校生徒の写真がネット上で掲載されたり、生徒(部員)への誹謗(ひぼう)中傷が数多く寄せられたとある。

その状況に当時、立ち上がったのがカズだった。メディアや自身の公式ホームページを使って「ののしりよりも思いやりを」というメッセージを発信し、傷つく高校生を守った。

あれから1年3カ月、カズに守られた高校生は、偶然にも遠征していた大阪でカズに出会った。54歳のカズが自主トレで大阪を使うのは初めて。少し大げさかもしれないが、奇跡的な巡り合わせになった。

南監督は、部員たちと短時間でカズにあいさつを済ませて、すっきりした表情で取材に応じてくれた。

「あの時、カズさんにコメントしていただき、選手だけではなく学校関係者は勇気づけられた。お礼を言えて本当によかったです。カズさんのコメントが出てからは、世間の批判がぴたっとなくなった。本当にその思いに感謝しています」

高校選手権はここ2大会ともに、立正大淞南は決勝で敗れている。本来なら全国大会で関東圏にいるはずの年末は、遠征先の大阪で練習試合の毎日だという。カズに感謝を伝えられた喜びを胸に、部員たちは次のシーズンへ向かう。【横田和幸】