FW大野忍(31=INAC神戸)は12年ロンドン五輪後、挫折を味わった。13年1月、フランスの強豪リヨンに移籍。満を持しての海外初挑戦だったが、言葉と食生活に苦しんだ。母登美子さん(61)は振り返る。「男みたいな感じだけど、食事以外は何でもやれる子。でも1人でいるのが昔から苦手。孤独に耐えられなかったようです。最後のほうは泣きながら電話してきました」。7試合の出場にとどまり、半年後には逃げ出すように帰国した。

 同年7月、国内の移籍先はなでしこチャレンジリーグ(2部相当)のAS狭山(現AS埼玉)しかなかった。だが、落ち着いた環境で本来の動きを取り戻すと、再び海外挑戦への勇気が湧いた。年末には誘われ続けていたイングランドのアーセナル行きを決断した。「お母さん一緒に来られる?」。仕事を辞めた登美子さんは一緒に英国に渡り、父光夫さん(64)は神奈川・座間市の自宅で約40年ぶりの1人暮らし。両親のサポートを受けてリヨンでの悔しさを晴らした。

 4年前、ドイツに応援に行かなかった両親は験を担いでテレビ観戦する。大野からは、W杯前最後のなでしこリーグ千葉戦を観戦できるようにと、新幹線の往復切符が届いた。光夫さんが7日の誕生日に受け取ったLINEのメッセージには「これからも長生きして応援してな」とあった。三十路(みそじ)を越えてなお成長しようともがき苦しんだ大野は、W杯で両親への恩返しの思いも込めてプレーする。【鎌田直秀】