悪夢の4失点に、なでしこジャパン連覇の夢はついえた。前回大会、12年ロンドン五輪と同じ米国との決勝戦、開始からわずか5分の間にセットプレーから2点を奪われ、16分間の4失点で勝負は決した。高さを警戒する裏をかかれた低いボール、計算された選手の動き。勝利へ執念を燃やす米国の勢いにも押されて、日本が誇る粘り強い守備は崩壊した。

 いつもと変わらない笑顔だった。前回大会も、ロンドン五輪も、決戦前の選手はリラックスした表情を見せていた。初戦の骨折で帰国していたFW安藤も再合流し、連覇へ向けてムードは最高だった。「決勝を楽しみたい」と、選手たちも声をそろえていた。ところが、そんなムードはすぐに粉々に吹き飛ばされる。

【前半3分 0-1】

 右CKに対して選手たちは高さを警戒した。MFラピノーが蹴ったのは、予想に反して低いボール。相手選手について日本選手が左右に開くと、中央にポッカリ穴があいた。そこにエリアの大外から走り込んだのがロイド。DF岩清水のタックルも届かず、左足に合わされたボールはGK海堀を抜いてゴールに入った。

 岩清水は「ロイドが来るのは分かっていたが、予想以上のスピードだった」と振り返った。

 CK前には何度もエリア外のロイドを見ていた。グラウンダーのCKが蹴られた瞬間、視線はボールへ。ロイドから目線を切ったその瞬間、計ったようにロイドは動きだし、岩清水の背後から回り込むようにエリア内にトップスピードで潜入した。「失点は自分のせい」。動きを研究された岩清水の言葉はショックに震えた。

【前半5分 0-2】

 右コーナー近くのFK。再びゴール前に低いボールが蹴られる。DFジョンストンがヒールで流すと、日本の守備陣はパニックになる。高いボールならGK海堀も出られるが、低いボールは難しい。逆サイドから走り込んだFWモーガンが日本選手を引っ張ると、後方から来たロイドがフリーで右足を合わせて加点した。

 セットプレーの守備は自信があった。前回大会は失点0、今回もPKの1点以外はとられていない。高さで劣っても、体を寄せてジャンプを阻止してきた。しかし、米国のCKは低かった。MF阪口は「高いボールが来ると思ったので準備不足だったかも。2点目で『うわっ』てなった」と振り返った。コースが変わるかもしれないボールに気をとられ、選手へのマークは甘くなった。1失点目の修正が利かないうちに2失点目。MF宇津木は「米国が(セットプレーから)狙っているのは分かっていた。序盤で試合を決める気迫を感じた」と言った。

【前半14分 0-3】

 米国の右クロスを中央で岩清水がヘディング。クリアミスでボールを見失うと、走り込んだMFホリデーに豪快に蹴り込まれた。好調時なら傷口を広げないように他の選手がフォローする場面。集中力が切れたのか、ルーズボールに対する反応が遅くなっていた。

 岩清水は顔を覆った。「チームに申し訳ない」。試合前に話し合った「前半を0で」のゲームプランも完全に崩壊。痛すぎる3失点目の後、選手は円陣を組んで「1点ずつ返そう」と誓い合ったものの、動きは悪かった。

【前半16分 0-4】

 今度は基本的な部分で致命的なミスが続く。日本が攻め込んだところで、FW大野がバックパスをミス。受けたロイドが海堀がペナルティーエリアを出て前にいるのを見逃さずに右足を振り切る。ボールはW杯史上最長の55メートル弾となってゴールへと転がった。

 「U・S・A」コールに揺れるスタンドに向け、ハットトリックのロイドは勝利を確信するガッツポーズ。その後FW大儀見が1点を返し、オウンゴールで詰め寄ったが、序盤の失点は挽回できなかった。米国のサインプレーで崩されたDFがミスを連発。日本は立て直すこともできず、5ゴールを奪われて連覇を逃した。