リオデジャネイロ五輪アジア最終予選を兼ねるU-23(23歳以下)アジア選手権で、既に1次リーグ(L)首位で決勝トーナメント(準々決勝)進出を決めた日本は今日19日、1次L最終戦でサウジアラビアと戦う。MF井手口陽介(19=G大阪)は母亜紀子さん(48)の思いを背負い、今大会初出場が濃厚だ。G大阪ジュニアユース入団と同時に故郷福岡を母と2人で飛び出し、二人三脚で歩んできた。秘密兵器となる最年少ボランチが五輪切符をたぐり寄せる。

 青いユニホームの左胸に光る日の丸。今回の日本で最年少19歳の井手口はその重さを感じながら、五輪出場権が得られる3位以内を目指す。最も身近で支えてくれた母亜紀子さんに「五輪切符」を持ち帰りたい。サウジアラビア戦は絶好の出場機会となる。

 国内屈指の下部組織、G大阪で育った。中学に上がると同時にG大阪ジュニアユースへ入団。福岡が故郷の井手口は、母と2人で大阪へ渡った。世界へ1歩でも近づくためだった。

 転機は突然だった。井手口が小学1年の時、福岡の下部組織に所属していた5つ上の兄稔さんが、全国大会へ出場した。これまで九州から出たことがなかった井手口一家が、全国レベルの高さを知った。亜紀子さんは「サッカーをするなら九州から出た方がいい。私が陽介の可能性を広げたい」と感じたという。6年後、住居を移す決断を下した。

 必然的に金銭が必要となった。「ジュニアユースに入れば、遠征費もかかる。大阪で1人で陽介を育てていかなければいけない。責任を感じた」。亜紀子さんは日本中で仕事ができる介護士の資格を取った。大阪へ渡る2、3年前からは福岡で働き始めた。「ガンバのセレクション(入団テスト)受ける?」という一言を発するまで6年間、いつか大舞台で活躍する息子の姿を思い浮かべてひっそりと準備を進めた。

 G大阪で井手口はメキメキと実力をつけた。下部組織の先輩FW宇佐美が、井手口のことを「怪物」と驚くほど。高3でトップへ飛び級昇格を果たし、プロ2年目の昨季はG大阪の長谷川監督が「一番成長した」と目を細めた。母の支えがあったからだ。カタールへ出発前、井手口は母に決意のメールをした。「絶対に五輪の出場権取ってくるから」。苦労を全く表に出さない母にいつも力をもらっていた。日本はもちろん、井手口にとって決戦の時が来た。【小杉舞】

 ◆井手口陽介(いでぐち・ようすけ)1996年(平8)8月23日、福岡市生まれ。G大阪ユース昇格後は高2で2種登録、高2の14年3月にユースから飛び級でトップ昇格。同年4月16日ナビスコ杯鳥栖戦で公式戦デビュー。J1デビューの昨季は8試合出場。171センチ、71キロ。