日本サッカー界は、勝てば18年のW杯ロシア大会出場が決まるアジア最終予選オーストラリア戦(31日、埼玉)と、同サウジアラビア戦(9月5日、ジッダ)を戦う、日本代表の動向に全ての目が注がれると言っても過言ではない。

 Jリーグも、J1は9月9日に開催される第25節まで中断期間に入る。一方でJ2とJ3は9月2、3日に通常通り開催され、J1のクラブが戦うルヴァン杯は、30日と9月3日に準々決勝が行われる。

 2部リーグであるJ2は、J1と比較して、どうしてもスポットが当たりにくい。ましてや代表戦が行われる時は、なおさらだ。ただ、サッカーと真正面から向き合う、向上に向かって1歩でも、半歩でも前進したいという思いは1つ…そのことを、湘南ベルマーレ曹貴裁監督(48)に、あらためて教えられた。

 曹監督は26日のザスパクサツ群馬対湘南ベルマーレ戦後の会見で、代表戦ウイークに開催される2日の横浜FC戦(BMWス)に向けて次のように語った。

 曹監督 A代表の決戦と言われる試合が始まりますけども、J2は中断せずに試合がある。自分たちも、いつかそういうレベルに行くんだ、近づくんだという強い気持ちを持って選手には、やらせてあげたい。

 ハリルホジッチ監督体制下の日本代表で、J2から代表に招集された例としてセレッソ大阪MF山口蛍(26)がいる。また16年には当時、松本山雅に所属した196センチの長身GKシュミット・ダニエル(25、現J1ベガルタ仙台)が、16年10月に日本代表GKトレーニングキャンプメンバーに選出されたが、J2から代表に選出されるケースは、極めて少ない。J2で首位を走る湘南とはいえ、日本サッカー界全体から見れば光が当たらないJ2でプレーする選手たちの、レベルと意識の向上に力を注ぎたいという“親心”がにじんだ。

 曹監督は、オーストラリア戦の結果次第ではハリルホジッチ監督解任の可能性も浮上するなど“勝てば天国負ければ地獄”とも言える状況に立たされた、日本代表にもエールを送った。

 曹監督 代表はポイントが詰まっているとか、次、負けたら…みたいな論調を聞きますけれど、我々と同じで、しっかり自分たちのサッカーをして勝っていけば、何の問題もないと思います。有利なチームは、どこなのか…今、置かれている状況で相手が仕掛けてくること、自分たちがやらなければいけないことを整理すれば、自ずと答えが出る。1サッカーファンとしてと言いますか…オーストラリア戦は非常に頑張ってもらいたいと思っています。

 代表に限らず、選手の口から決まり文句のように聞かれるのが「自分たちのサッカーをする」という言葉だ。そのひと言で全てを片付けるような物言いに、取材現場で違和感を覚えることが多く、試合後のミックスゾーンで、「では、自分たちのサッカーとは?」と聞き返すと、口ごもる選手も少なくない。

 曹監督が口にした「相手が仕掛けてくること、自分たちがやらなければいけないことを整理すれば、自ずと答えが出る」という言葉こそ、「自分たちのサッカーをする」という言葉の、真理だと強く感じた。試合に向けての準備の中で、もちろん、自軍の戦術を突き詰める、高めることは大事だが相手の戦術、長所、短所を徹底的に確認することも欠かせない。相手に応じ、やり方を多少、変えざるを得ない場合もあるだろうが、それらをまとめて試合のピッチに立ち、相手にぶつけるサッカーこそ、その試合における「自分たちのサッカー」だろう。曹監督の言葉は「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という孫子の故事にも通じる。

 J2で首位を走る湘南で躍動するFW山田直輝(27)は、J1浦和レッズの下部組織からトップに昇格した1年目の09年5月に18歳で代表に初選出された。同27日のチリ戦ではFW本田圭佑(31)の代表初ゴールをアシスト。翌10年1月のアジア杯最終予選イエメン戦に先発したのを含め2キャップを記録した。06年のW杯ドイツ大会に出場したDF坪井慶介(37)も健在で、各年代の代表経験者が多数、プレーしている。

 曹監督は「(代表戦を見て)我々も勉強したいと思っています」と語る一方、試合への向き合い方は「我々と(代表は)同じ」と口にした。J2を戦う各チームの監督、選手の口からは、チームのJ1昇格という使命はもちろん、個人としての高い向上心を感じる選手も少なくない。ピッチでのプレーからもにじむ向上心を伝えたい…そのことが毎週末、J2が開催されるスタジアムに足を運ぶ、1つの動機になっている。【村上幸将】