そこに左サイドバック(SB)の山本脩斗がいた。

1点目はまだ分かる。セットプレーで残っていた。相手のクリアをつないでMF遠藤康が持った瞬間、タイミング良くDFの裏を取った。「(遠藤)ヤスがあそこの角度で持ったら見てくれる。うまく抜け出せましたし、うまく当てることもできた。感触的には行ったかなと」。前半28分に頭で、貴重な先制ゴールを挙げた。

2点目は、なぜ、そこにいたのだろうか。右サイドからの攻撃。遠藤と右SBの内田、FW鈴木と枚数をかけていた。最後はMF永木亮太が中に送る。MF安部裕葵がGKと競り合い、ボールはパンチングではじかれた。ペナルティーエリア内のこぼれ落ちたその場所に、山本はフリーでいた。

「右サイドから行っているのが分かっていましたし、自分のマークもついていなかった。中も同数ぐらいで、何か来そうだなという感じがあった。『こぼれてこい』と。うまくタイミング良く行けた」。

前半37分の貴重な追加点。ホームの第1戦は1-1で引き分けており、アウェーでの複数得点はすなわち、引き分けでも突破を意味する。これが鹿島に勢いをもたらした。「誰が脩斗さんの2点を予想していたかな。同じ(SBの)ポジションだけど、ああやってスルスルって上がっていくのはやっぱ、すごいよね」。DF内田篤人も感嘆の声を上げた。まさに33歳の嗅覚だった。

左SBが攻撃で示した存在感。一方で、右SBの内田は守備で一役買っていた。最初に円陣を組んだときは「難しいゲームは向こうの方なんだから、こっちは普通にやればいいよ」と声を掛けた。後半早々にPKで1点を失ったときも全員を集めて「2-2でもいいんだから普通にやろう。ここは我慢しなきゃダメだ」と諭した。

「真ん中2枚がどっしり構えてっていう雰囲気がないなって思った。第1戦を見たときに。ワンちゃん(DF犬飼)だったり、マチ(DF町田)だったり、昔の(大岩)剛さんや岩政さんみたいにたくさん経験があるわけじゃないけど、鹿島のセンターバックって、Jリーグのほかのチームとは違うと思うんだよね、オレは。それを助けたいと思った。DFラインをしっかり締めようと」。

今季から復帰した背番号2は、みんなに声を掛け、自らは体を張り、ときには芝生をたたいてまで悔しがる背中を見せて、引っ張った。第1戦で「フワッとしていた」と感じた守備陣に、気迫という名の“雰囲気”をもたらした。「アントラーズの伝統という姿を見てきて、せっかくこのチームに戻ってきたんだから、下に伝えなきゃもったいない。自分がやらなきゃいけない仕事だと思っているんでね。こういう難しい試合でも、鹿島らしさ(を出せた)というか。オレが上の人を見てきたプレーを、そのままやっているだけですけど」。

今季、Jリーグではなかなか波に乗れない常勝軍団だが、ルヴァン杯は強敵川崎Fを勝ち抜いた。アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)も天皇杯も残る。まだ、どの大会のタイトルも、可能性は消えてはいない。山本は「なかなかうまくいかない試合もありましたけど、こういう勝利によってまた次のステージに行ける。また試合は続く。自分たちらしいサッカーを、練習からしっかり取り組んで頑張りたい」と口にした。