サッカー元日本代表で、ワールドカップ(W杯)4大会を経験したJ1名古屋グランパスGK楢崎正剛(42)が現役引退する。8日、クラブが発表した。

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【楢崎正剛引退に寄せて】

背中で語ることのできる、偉大な選手だった。立ち姿で圧倒し、ゴールマウスに構えるだけで相手に威圧感を与え、対峙(たいじ)する相手にゴールを小さく見せた。

身長187センチと大柄だが、長身GKにありがちな動きのぎこちなさが一切なく、一連の動作はスムーズで品があった。

派手でとにかく勝負強い川口と比較され、地味な存在にみられたが、前に出ることを嫌う楢崎には、その役回りが合っていたのかもしれない。GKのかがみともいえる、職人肌の守護神だった。

失点が最もクローズアップされてしまう酷なポジション。1点決めたらヒーローになれるFWとは違うが、15年近く取材させてもらって、1度も言い訳を聞いたことがない。

どう見ても阻止するのが無理な失点にも「いや、ああすれば止められた」「こうすれば良かった」とボソボソ言っていた。PK戦では何度か、相手のキックをはじくのではなく、キャッチしたことがあった。こちらは驚いたが、その時も本人は平然としていた。

とにかく、エゴを出さず、自己犠牲の精神でやってきた。決してやせ我慢ではなく、普通にそれができた。だから誰からも慕われ、ずっと尊敬され続けた。

たとえ、その振る舞いが理解されなくても、絶対に信念を曲げなかった。

けがをしても、チームのためにとにかく早く復帰することを優先した。30代後半のある時は、けがから一番早く戻ることのできる方法を選択し、患部の内視鏡手術を受け、約10日で戦列に戻った。

この時、手術を受けたことさえ周囲には明かさなかった。選手寿命を考えれば長期離脱し、じっくり治療した方がいいと医師から言われたが、譲らなかった。最後方に仁王立ちし、チームに安心感を与え続けることに誰よりプライドを持ち、やってきた。

14年W杯南アフリカ大会後に自ら日本代表から離れたが「代表引退」という表現を嫌い、自分の口からは1度もそう言わなかった。それは「もし日本代表のGKにけがが続くようなことがあれば、その時は自分が助けられるかもしれないから」という“限定復帰”への思いが心の奥底にあったから。いつ、どんな時もフォア・ザ・チームだった。

18年はプロになって初めて公式戦出場ゼロに終わった。起用はともかく、その扱いに愚痴の1つも言いたくなりそうなものだが、最後まで不平不満を口に出しはしなかった。

名古屋からは昨年12月、型通りのやり方で、契約を更新しないと告げられていた。獲得に乗り出すクラブも複数あったが、丁寧にお礼を言い、断っていたようだ。

現役生活で最初で最後のわがままが、この現役引退だったように思う。もっとプレーを、ユニホーム姿を見たかったが、決断を尊重したい。本当にお疲れさまでした。

【元名古屋担当=八反誠】