ビジネス界出身ながら世界水準のリーグを目指して3期6年目の村井満チェアマン(59)が、日刊スポーツで執筆中のコラム「無手勝流(むてかつりゅう)」。新時代令和の第1回となる今回は「組織経営」がテーマ。ビジネス界だけではなく、Jリーグでは入場者数が4年連続で1000万人を突破するなど、組織の成長につながる改革を進めている村井チェアマン流の「組織論」は、必読です。

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私自身、気が付けば今年で還暦を迎えようとしています。これまでは体力には自信があり、日本中、時には世界中を飛び回ってきましたが、さすがに以前よりも体力が落ちて、より健康を意識するようになりました。年に1度の人間ドックなどで、客観的に自分の状態を知ることが大事だと痛感する毎日です。

組織経営にも「健康診断」が必要だと思っています。Jリーグでは毎年、パートナーやメディアといった多くの関係者に我々の仕事ぶりを評価してもらうアンケートを実施し、私自身も社内の部長以上の役職者から「無記名360度評価」を受けています。社内での地位が上位になるほど、直接指摘をしてくれる人間も少なくなります。自らは良かれと思っていても時に独善的になったりするので、強制的なフィードバックを入れることが重要となります。そうした考えから、Jリーグではフィードバックの機能を入念に張り巡らせているのです。

私が組織の成長において重要視していることは「組織内に異物を入れて天日にさらす」こと。例えば会議で恐れるのは「全会一致で賛成」や「異議なし」の状況です。理事会や実行委員会では議事進行の収拾がつかないほど議論が沸騰することがあります。反対意見や我々執行部を問い詰める場面も数多く、私が返答に窮することがあるのですが、実はこういう状態の方が健全だと考えています。

チェック機能をより働かせるために、Jリーグのメンバーに言っているのは「魚と組織は天日にさらすと日持ちがよくなる」ということです。「この情報は都合が悪いから、ここだけにしておこう」という組織はたいていダメになる。不都合な事実も開示し、みんなで議論していこうと。ひとたびトラブルが起こるとルールブックが厚くなりがちですが、常に社会に存在が開かれていて、何か起きたらすぐに外に流れる状態をつくっておくことの方が健全な組織運営の本質です。いわば「会社の中に社会をつくる」ことこそ、あるべき姿だと思うのです。現在JリーグではNTTグループや楽天など風土の全く異なる組織からの出向者や、派遣社員、アルバイト、インターンシップなど、さまざまなバックグラウンドを持つ仲間が出入りしています。同質にならない多様な価値観を持つ者で意図的に構成することで組織の活性化を促しているのです。

こうした根底にあるのはサッカーというスポーツが一部の人間のものではなく、サッカーを愛する皆さんのものであるという考えです。サッカーをする人、見る人、支える人が、それぞれの立場で自由にサッカーを語り、サッカーを使い、サッカーを楽しむために「自らを開いていく」という気持ちを、令和の時代も持ち続けていたいものです。

◆村井満(むらい・みつる)1959年(昭34)8月2日、埼玉・川越市生まれ。浦和高サッカー部ではGK。早大法学部卒業後、83年にリクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社。00年に同社人事担当執行役員に就任。その後、リクルートグループ各社の社長を歴任した。08年7月にJリーグ理事就任。14年1月に第5代チェアマンに就任し、現在は3期6年目。家族は夫人と1男1女。