セレッソ大阪の本拠地「桜スタジアム」が、現在改修工事中で来年3月にお披露目される。サポーター以外には聞き慣れない名称かもしれないが、大阪市立長居球技場のことで、18年末まではキンチョウスタジアムの名で親しまれた。同じ長居公園にある、もう1つの本拠地ヤンマースタジアム長居の隣にある。

桜は大阪の市花で、スペイン語で「セレッソ」という意味。改修費用の大部分を募金でまかなうのが、今回の桜スタジアムだ。その活動を中心になって担うのは、任意団体「桜スタジアム建設募金団体」の佐伯真道理事(48)。長居公園の指定管理者である、一般社団法人C大阪スポーツクラブの幹部でもある。

募金目標額は66億円。募金受付は第1期が17年3月14日からで、1年ごとに延長され、今年3月14日から第4期(4年目)に突入した。3月1日時点で募金は約25億円(うち約23億円が法人、約2億円が個人)にとどまり、苦戦していただけに、4年目に延長できたのは大きい。

ライバルのガンバ大阪の本拠地パナソニックスタジアム吹田が、約140億円の寄付金や助成金などで完成。募金活動は第3期で終えていた。当初は桜スタジアムも同じ第3期で終了とみられていたが、国税庁にこのほど異例の延長を認められた。

「丁寧な説明をして認めていただいた。第4期がなければ痛かった」と安堵(あんど)する佐伯氏は、決して簡単ではない募金活動の一部を説明する。

「実際に我々が街頭に立っても、セレッソに興味がなければ、誰も募金をしてくれない現実があります」。あるスポーツ大会で募金ブースを設けて呼びかけたが、1日で集まったのはわずか1500円だったこともある。

「そのためサポーターやスポンサー企業が中心に、少しでもみなさんに興味を持っていただき、助けてもらえれば」と佐伯氏。寄付は税制上の優遇措置も受けられ、1回の申し込みで5万円以上の寄付をすれば、名前(個人、法人名)のプレートがスタジアム内に掲出される特典もある。

来年3月の完成と同時に桜スタジアムは大阪市に寄付され、C大阪スポーツクラブが30年間の長期契約で大阪市から指定管理委託を受ける。委託料が発生しないために、C大阪側がいかに独自の収益を上げていくかが同時に与えられた課題になる。

そのために、桜スタジアムに多くの価値をつけようとしている。競技場の機能は、今回の改修でACLなど国際試合も開催可能となる。客席とピッチが最も近い場所で約5・7メートルとなり、日本一の親近感と迫力があることを武器に常時満員を目指す。

集客数は約2万5000人で、ヤンマーの半分程度だが、これまでC大阪のチーム広報を務め、3月から桜スタジアムのプロデュースグループ長に就任した音田堅太郎氏(46)は「逆に2万5000人しか入場できないという、プレミア感をサポーターに持っていただければ」と期待する。完成後は2つある本拠地の使用を、桜スタジアムに一本化する流れだという。

さらにスタジアム内に、さまざまな施設の誘致を目指している。「サッカーの試合がない日も地元の人々が集まり、喜んでもらえるスタジアムにしていきたい」と佐伯氏。球技専用スタジアムのため、ラグビーやアメリカンフットボールの試合誘致へ、関係団体との交渉も行っていくという。

新型コロナウイルスの問題もあり、募金活動への逆風は吹くが、1年後に迫る桜スタジアム完成への熱意で関係者は走り続ける。臨場感や生活感があふれる未来型の募金スタジアムが、大阪の新たな名所になることは間違いない。

【取材後記】

桜スタジアムの完成を目指す佐伯氏は、かつてJ2愛媛で副社長を務め、DAZN(ダ・ゾーン)での勤務を経て現職についた。現在の仕事は多岐にわたる。地元のイベントで募金を呼びかけたり、スタジアム内応接室のドアノブの値段を工事業者と折衝したり。「1週間前の記憶もないほど多忙です」と苦笑いする。

それでも「チーム・セレッソ」の態勢は整いつつある。複雑で大量の仕事が待ち受けるが、C大阪のチーム広報として天皇杯やルヴァン杯の優勝に立ち会った音田氏が、3月からこのプロジェクトに加わった。選手ら現場との橋渡しも期待され、他のスタッフと強力なスクラムを組む。

テレビのドキュメンタリー番組に登場しても不思議ではないほど、この1年の活動は濃密になる。苦労を乗り越え、来年6月にも予定されるこけら落としが楽しみだ。【横田和幸】