21日は父の日。J2東京ヴェルディのFW大久保嘉人(38)には4人の男児がいる。SNSでは長男碧人(あいと)さん(14)とのコント風動画が話題になるなど、友だちのような「父子関係」を築いている。中学生になった碧人さんが、父の日に自筆の手紙を大久保に送るとともに、オンラインでの親子の対談が実現した。何でも話し合える「父と子」の素顔をお届けします。【取材・構成=岩田千代巳】

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碧人さんが日刊スポーツにパパへの自筆の手紙を書くのは、8歳だった14年のW杯ブラジル大会以来。それから6年。中学生になった碧人さんは、38歳で現役を続ける父への敬意と「3歳の弟が、パパの仕事を分かる年齢になるまで活躍してほしい」との思いをつづった。受け取った大久保は「成長しましたね」と感慨深げに目を細めた。

新型コロナウイルスの影響で4月からクラブも活動休止、学校も休校となり、約2カ月半を一緒に過ごした。互いに新たな発見はあったのだろうか?

碧人さん (大久保が)家で筋トレをしていたんですけど。いつも練習場であんなキツイことをやってるんだなと分かりました。自分も一緒にやったらきつすぎて、途中でやめました。ビビりました。

大久保 メニューがきつかったんですよ。1人でやると妥協するなと思って、碧人と一緒にやったんです。(碧人さんの)新たな発見は自分のモノマネですよ。

休止期間中、SNSで話題になったのが碧人さんの大久保のモノマネ動画。「#もし大久保嘉人が○○だったら」のシリーズで、碧人さんが「学校の先生編」「マクドナルドの店員編」など、コント風にモノマネを披露。時には「大久保と大久保」として父子共演も果たした。東京V、川崎F時代の仲間やフォロワーから絶賛され、再生回数がいずれも13万回を超えた。

碧人さん ご飯を食べているときに初めてマネをしたら「似てる」と大爆笑になって。別に昔からやってたわけではないんです。やったら似てたという…。

大久保 「モノマネできるじゃん」と思ってSNSに載せるようになったんですよ。2人で雑談しながらアイデアを出して。みんなから「碧人でいつも笑わせてもらってます」「元気もらってます」とメッセージをもらいました。これで、碧人が有名人になってくれないかなって(笑い)。

お笑いのセンスを発揮している碧人さんに、サッカー以外の面で、大久保の私生活を聞いてみると…。

碧人さん 相変わらず、子供みたいなところがありましたね。よくお母さんに怒られてるし。トイレでは座るルールなのに、立ってして怒られたり。物を片付けないとかも。自分と同じところで怒られていますね。

愛息に「子供」と言われた大久保は「いつも、こいつに言われてますから。慣れてます(笑い)」と苦笑するしかなかった。

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2人の関係は親子と同時に、友だち、兄弟のようでもある。碧人さんは、大久保に怒られることもあるが「友だちに怒られているみたい」と話す。

大久保 自分は父親には、いろいろ話すことあっても、恥ずかしくて言えなかったんです。言いたいことがのどもとまで出てるけど、言えずにタイミングを逃したり。学校で悪いことをしても言えずに、後から知られてブチギレられるという…。好きな子ができたりとか、プライベートな話とかも言えなかった。だから、自分が父親になった時、子供には友だちのように何でも言ってほしいなと。

碧人 確かに話しやすいです。これ言おうかなって、迷うことなく言っちゃう。お母さんにはあまり、相談とかはしないかな。

大久保 思っていた通りになった!(笑い)

何でも相談しあえる信頼関係。こんな親子関係を築く秘訣(ひけつ)はあるのか。

大久保 言えないのは“線を置いてる”からなのかな。「これ言っちゃっていいのかな」と考えるからいけない。線を無くせば、すぐに子供も心を開いてくれるやろうし、友だちのような関係になれると思う。自分は恥ずかしいとかは、考えたことない。友だちに話すようにパっと質問したり話したりする。「彼女できた?」と聞いたり。碧人は「できてない」と言うけど、こいつも、恥ずかしがって言えてないかもしれない(笑い)。

互いの長所、短所も遠慮なく言い合う。

大久保 長所は、素直なところ。直してほしいところは、恥ずかしがり屋で、自分の中で自信があっても隠すんですよね。できるのに「できない、できない」って。自信を持つのはいいことなので。自信持って「おれやるよ」となってほしい。

碧人さん 頑張ろ! (大久保に)直してほしいのは寂しがり屋なところ。昼ご飯とか、何でもついて来させようとするから。「おなか減ってないから行かない」ってケンカになったりする(笑い)。

大久保 それはもう治らん

(笑い)。

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碧人さんは中学に入り、真剣にサッカーに取り組んでいる。活動休止期間中、大久保から「みんなに追いつくには、逆に今がチャンス」とアドバイスをもらい、サッカーの基本である「蹴る」「止める」の個人技を磨いた。

大久保 1人でもすごく練習してましたね。中学生になってサッカーにはまりだして、言うことを聞くようになったんですよね。それまでは、ちょっと言われるとふてくされて「面倒くせぇ」みたいな感じだったんですよ。

碧人さん 小学生のころはサッカーに興味がなかった。中学に入ったらおもしろさに気づいて。小学時代は「蹴る、止める」の基礎的な部分からできていなかった。できるようになると景色が変わって。小学校のころがもったいないなあと。

大久保 中学生になって「うまくなりたい」「強いチームでやりたい」と言いだしたから、勝手にやるだろうなとは思ってました。現にサッカーも成長してます。今からでも間に合う。これから高校でやるかは分からないけど、まだチャンスはいろいろ、あると思う。

碧人 中学生になって、サッカーを見るようになってから(大久保の)すごさにさらに気付いた。得点もそうだけど、パスもすごいうまいなあと。見てて「うまっ」って口に出るときもあります。

将来に無限の可能性を秘める中学生。コント風のモノマネでお笑いの頭角を現しているが、父と同じ「サッカー選手」の道も意識している。大久保も、プロになった碧人さんと一緒のピッチに立つことを想像することもあるという。

今季から東京Vでプレーする父に期待することに、碧人さんは「やっぱりゴール」と挙げた。

碧人さん ヴェルディのレジェンドになるぐらいの勢いでゴールをいっぱい決めてほしいなと。フロンターレの時のように。点を決めて欲しい!

再開は6月27日のホーム町田戦。リモートマッチ(無観客)で、家族をスタンドに呼ぶことはできないが、長男からのエールを胸に、ピッチに立つ。