あふれる涙を、止めることは出来なかった。

横浜FCのMF長谷川竜也(28)は、試合後のミックスゾーンで、何度も、何度もぬれた目を拭った。本拠地最終戦(対ツエーゲン金沢)は敗戦。ただ、3位ファジアーノ岡山が敗れたことで、目標であったJ1昇格が決定した。「何とか勝って終わりたかった。この悔しさは来年のJ1の舞台で晴らしたいと思います」。笑顔で、喜びをかみしめることはかなわなかった。

荒波にもまれた1年だった。開幕13戦無敗と好調な船出を迎えたが、キャプテンの心中は穏やかではなかった。「何で勝てたのか分からない試合が多かった。何となく勝っちゃった試合が多ければ多いほど、サッカー的に力がついているか? だった。こういう理由だから、勝てたという試合がないと、成熟度的に厳しい。勝利の根拠がほしかった」。仲間と対話を重ね、確信に変えていった。

簡単な旅路ではなかった。シーズンのヤマ場に入った9月は、3日レノファ山口FC戦から3戦連続で勝ち星から遠ざかった。3位岡山が追い上げてきたこともあり、プレッシャーを受けていた。「チームとしても、個人としても苦しかった。あの時はきつかった。1試合、勝つ事がどれだけ難しいか」。昨季までJ1王者・川崎Fの一員。「自分が違いを見せられるのか、勝たせることが出来ないと、このチームに来た意味がない」と奮い立たせた。

正しきコンパスの針を示してくれたのは、趣味の漫画だった。「恋愛系も読みますよ。作品名は恥ずかしいので、勘弁して下さい(笑い)」。一番のお気に入りは「ONE PIECE」。海賊王を目指す主人公ルフィに対し、仲間のナミが初めて助けを求めるシーンにグッと来たという。「1人で背負うと、パンクする。人間のもろさを感じた」。現実の世界もそう。「思い通りにはいかない」。長谷川も仲間を信じ、かじを取ってきた。

静岡学園時代、初めてプロの練習に参加したクラブが横浜FCだった。「あの時は、全てがあっという間でした」。気付けば、約10年の時が経過した。感動を受ける側から、与える側となった。旅は続く。次なる舞台は古巣・川崎Fが待ち受けるJ1。J2よりもさらに激しさを増す大海原で、いつの日か最高の涙を流す。【栗田尚樹】