J2の4位ロアッソ熊本がJ1初昇格に王手をかけた。リーグ戦上位チームは、引き分けでもJ1参入プレーオフ2回戦を突破できるアドバンテージがあり、同6位モンテディオ山形とドローながらも、J2の1年目で悲願の“ジャンプアップ昇格”へ前進した。

日本代表コーチも務めた大木武監督(61)が指揮して3年目。2年間のJ3から積み上げてきたパスサッカーが集大成となって、そのパワーが1万1429人が詰めかけたホーム最後の試合でさく裂した。

前半12分、CKから幸先よく先制した。だが、その後は相手のパスワークに翻弄(ほんろう)されて2失点され逆転された。だが、悲願への執念で諦めない。後半5分、同点PKをFW杉山直宏(24)が左足で決めて、振りだしに戻した。

11月4日の練習で、MF三島頌平(26)は「前からガンガン、プレスをかけ、簡単にはつながせないようにしたい。ビルドアップの時に(ボールを)取って、ショートカウンターを仕掛けるのが一番理想の得点の形」と意気込んでいた。

すべてが作戦通りというわけにはいかなかったが、全員が大一番で死力を尽くした。

昨季までJ3の地方クラブゆえに潤沢なトップチーム強化費はない。昨季人件費は、J1トップのヴィッセル神戸の約50億円に比べて、約1/21の約2億4000万円しかなかった。当然助っ人外国人はゼロ。だが、今季14得点と大ブレークした国士舘大から熊本3年目のFW高橋利樹(24)ら、大卒中心に編成した“熊本育ち”の若い力で快進撃を見せてきた。

この日の先発でJ1経験者はわずか3人だけだ。しかも、当時の所属クラブで主力だったわけではない。経験不足が懸念されたチーム戦力ではある。

だが、清水エスパルスや京都サンガ監督などを歴任した経験豊富な大木監督のマネジメント力もあって、上昇志向の強いハングリー精神で躍動した。

熊本に甚大な被害をもたらした16年4月の熊本地震から、復興のシンボルとして、県民の心の支えとして走り続けてきた。そして、誰もが夢にまで見たJ1初昇格が、ついに実現しようとしている。【菊川光一】

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