青森山田が2大会ぶり4度目の頂点に立った。初優勝から8大会で6度の決勝進出を誇る貫禄で、初のファイナル進出を遂げた近江(滋賀)の勢いも真っ正面から押し返した。

その試合を、青森山田の黒田剛前監督(53)がスタンドで観戦した。帝王学を伝授してきた前ヘッドコーチの正木監督と、一昨年まで指導した教え子の成長にスタンドから涙。思いを語った。

「正木(監督)が、本当にいいチームをつくってくれた。去年を経験してる子たちも多いし、すごく落ち着いて、山田らしいサッカー、力強いサッカーを展開してくれたなと思う。試合をするごとに少しずつ、らしさも出て、緊張感もほぐれて、すごくたくましく見えました」

青森山田の指揮を、教え子でもあった正木昌宣監督(42)に託してから1年3カ月。今大会は全試合を観戦して、受け継がれている「青森山田の強さ」を再確認した。

「山田の戦い方は、特にこの10年は、かなり高いレベルのところで構築している。『何でもできるサッカー』というのが、我々のベースとして積み上げてきたもの。そこはもう正木監督も、一緒に19年やってきてるので、しっかり受け継いでいる。その中で正木は正木の色を出したいと思いながらやってると思うので、大きくぶれることなく、これが山田の強さというものを前面に出して、やってくれてるなという印象があります」

後進の試行錯誤にも思いを寄せた。

22年10月。J2町田の監督に就任が決まり、正木監督に伝えた時には「おめでとうございます」と素直な言葉が返ってきた。

「正木は監督をずっとやりたいと思ってたと思う。お互いに1つランクを上げる、ステージを上げるということなので、それはお互いにとって有意義で素晴らしいこと。さらなる責任があるステージに行くわけだから、ハッピーなことだと捉えてね。今までやってきて、面倒だったことや苦労したことも含めて正木には全てを伝えたし、資料も全部渡した。だから、すごくスムーズに、引き継ぎができたんじゃないかな」

これまで自身が経験した吸いも甘いも、全面的に伝えた。

それでも、常勝軍団を受け継ぐことに、正木監督には少なからず重圧があっただろう。

「やっぱり監督とコーチというのは、見える景色も違う。俯瞰(ふかん)して見えなくなってくるのが、監督の立ち位置なんでね。それは今、正木も19年間、コーチとして寄り添ったとしても、痛感してるところでもあると思う」

実際、正木監督が黒田前監督に「監督がやってきたことがどれぐらい大変なことだったのかっていうことを痛感した。重圧みたいなものは、全くコーチとは違う」と漏らしていたこともあったという。

「ただ、今まで一緒にやってきたし、この国立は正木が来てからもずっと、選手権のベンチに入って、またはロッカールームでどういうミーティングをしながら、どういう風にチームをつくってきたかということを、彼はよく知っている」

19年間、隣で支えてくれた存在だからこそ、信頼は厚い。当時から何でも提案できるチームづくり、距離感を意識してきた。正木ヘッドコーチからの提案も、まずは聞いた。

「みんな1人1人が、コーチ、スタッフたちがみんなで戦ってる感覚を持っていかなきゃダメだと思う。だから、頭でっかちにならずに、独りよがりにならずに、いろんな人たちの意見が飛び交うようなベンチワーク、スタッフワークをやっていた」

今の青森山田の内部状況までは把握していないというが「正木に対してコーチ陣がどれぐらい意見を言うか分からないけど、勝った時も負けた時も、感情を1つにできるように。今度は正木に誰かが意見してくれないと、正木も見えないところが出てくると思う。そういったところを正木が、これからの組織づくりの中で、きちっと作っていかなきゃならない」

スタッフワークにも期待した。自分の手を離れた青森山田に、大いに期待している。

「(正木が)しっかり1年間指揮を執ったのは今年が初めてだと思うので、こっから2年、3年と積み上げていきながら。彼は42歳なんで、あと10年、20年できると思うから。その中でさらに他もレベルアップしてくる中で、その重圧に耐えきれる、またはさらに強くできるような、山田の歴史を築いてほしい。『青森山田の強さ』をずっと維持、継続できるように、奮闘してほしいと思う」

そのための援助は惜しまないつもりだ。「俺はプロの監督として、応援できるところはしていくよ」。今大会も、練習場所として町田のグラウンドを5日間貸したり、決勝前には調整場所として、自身が重用していた東京工業大グラウンドを押さえた。

「まだまだ、そういったことができてない面もあるから。これからは彼が全部やっていくような形になると思うけど。まあ、やれることはね、こっちの方でも、できるだけ協力してあげたいと思う。それは正木だけじゃなくて、選手たちに対しても。やっぱり、突然いなくなった自分のいろいろな思いもあるので。何とか子供たちのために少しでも力になってあげたい」

練習場所の提供など黒田前監督の尽力もあって、選手たちは2大会ぶり4度目の頂点に輝いた。

正木監督には表彰式の後に、電話で「おめでとう。刺激をもらえた。また頑張るわ」と伝えた。

「お互いに切磋琢磨(せっさたくま)して、協力し合いながら、ともに歩んでいきたいね」

青森山田と今季J1の町田、戦うカテゴリーこそ違えど、ともに今後も戦っていく絆が結ばれていることは、間違いない。【濱本神威】