選手、監督、スタッフの他にも、ワールドカップ(W杯)を盛り上げた「日本代表」がいる。フリーの広報として働く岩元里奈さんは、国際サッカー連盟(FIFA)の広報担当「メディアオフィサー」として約3週間、大舞台を裏側から支えていた。

スペイン、ドイツ、エジプト、インド…。さまざまな国からW杯のために広報のプロが集結する。「世界中から集まって一瞬でチームになり、終わればまた解散する。みんなプロだなと感じました。誰もが泣いたり笑ったり、熱狂する世界のスポーツに関われることがやりがいです」。チームとメディアのパイプ役。互いの思いをくみ心地よい取材環境をつくることが、世界中のファンへ届く情報につながっている。

岩元さんは8強のオランダ、日本と1次リーグで対戦したコスタリカを担当。異なるカラーのチームと一から関係を作り、たくさんの感動的なシーンに出合えるのも、この仕事の醍醐味(だいごみ)だ。

オランダのファンハール監督の会見では、指名されたセネガル出身の記者が「質問はないんです…」と語り始めたこともあった。「私は記者になりたてですが、子供の頃からファンでした。ずっと会いたかったです」。まさかの展開に冷や汗をかいた岩元さんの隣で、ファンハール監督は「君の勇気をほめよう。あとでビッグハグをしてあげるよ」と優しくほほ笑んでいた。71歳の指揮官の包容力に、会場では自然と拍手が起きていた。

実は今回の仕事は3週間限定。5歳の娘がいるため長期間は難しいが、家庭と仕事の両立をFIFAは快く理解してくれる。初めて岩元さんがFIFAに関わった07年。ペアを組んだ女性は、8カ月前に出産したばかりだった。「子供がいて仕事をするのは、特別なことじゃないんだ」。15年前の経験が今も働く下地となっている。今年のドーハにも2歳と4歳の子供がいる女性、妊娠中で日に日におなかが大きくなっていく女性もいた。

今回のFIFAのメディアオフィサー25人のうち10人が女性。「男の人ができること、女の人が得意なこと。お互いに尊重して仕事をしています」。山下良美さんをはじめ、W杯で初めて3人の女性主審が選ばれた今大会。「女性初」という言葉が話題になったが、世界を見ればもう当たり前のことのようだ。

世界のトッププレーヤーが集まるW杯。その裏側を支えるのも、世界中から集結したプロたちだった。【磯綾乃】