W杯カタール大会(11月21日開幕)の1次リーグで日本(FIFAランキング23位)と対戦する強豪ドイツ(同12位)。14日のイタリア戦では、昨夏の欧州選手権を制したイタリアに5-2と圧勝した。ドイツとはどんなチームなのか? そこで14年W杯を制したドイツ代表チームで日本人ながら試合分析を担当していた浜野裕樹氏(33)が、現地から随時リポートする。今回はイタリア戦で見せたドイツの強さに迫った。


歴史的大勝となったイタリア戦は、ドイツらしさが前面に出た。W杯出場を逃し世代交代の真っただ中にある相手とはいえ、勝利に水を差すものではない。フリック監督がバイエルン・ミュンヘン時代から好む前からの積極的なプレッシング、「ゲーゲンプレス」で相手を苦しめた。

イタリア戦の後半、チーム4点目を決めるドイツのヴェルナー(右)。イタリアGKドンナルンマ(AP)
イタリア戦の後半、チーム4点目を決めるドイツのヴェルナー(右)。イタリアGKドンナルンマ(AP)

縦105メートル×横68メートルのピッチをできるだけ前に圧縮し、各選手が受け持つスペースを狭くする。攻撃は縦パスを送り、相手を背負った選手が前を向いている味方にボールを落とし、後ろから追い越す選手を使う。シンプルだが要求される技術レベルは非常に高く、中央に選手を集めてできるだけ早く相手ゴールに迫る戦い方を披露した。

大きく速い展開からサイドを使って揺さぶり、得点を重ねた。ミュラーが「ウェルナーの2点目はチームの戦い方が表れたゴールだったと思う」と語った場面は、ドイツ人らしい「リアリスト」の顔が見えた。後半24分、相手GKドンナルンマへのバックパスをウェルナーが追い込み、苦し紛れのパスをニャブリがカット。ウェルナーへつないでゴールした。


フリック監督は14年W杯優勝時のコーチで、レーブ監督の「右腕」。Bミュンヘンでは攻撃的なサッカーを志向しつつ、激しい守備にも力を入れた。現実的なスタイルで19-20年には欧州CLを含む3冠に輝いた。昨夏の欧州選手権のベスト16でイングランドに0-2と完敗すると、15年に及ぶレーブ体制の後を引き継いだ。ノイアー、キミッヒらBミュンヘン(今回の26選手中8人)の選手を軸に、チームを熟成させている。

試合後、フリック監督は「攻撃では勇気を持って前に向かってプレーし、守備では高い位置から相手にプレッシャーをかけるというマッチプランを実行してくれた」とたたえた。集中力を切らさず、得点差が開いてもやるべきことを徹底するドイツは強い。

実際、日本に付け入るスキはあるのか。ドイツが嫌がるのは、自陣でコンパクトに中央を圧縮しながら固めてくる守りだ。それに伴いドイツの守備陣、特にサイドバックは攻撃時に幅を取ることが求められ、ポジションを上げざるを得ない。カウンターの際に自陣に大きなスペースが生まれる。つまりボールを奪取すれば、伊東純也のようなスピードある選手を送り込めればチャンスは出てくる。

また、ドイツは自分たちがボールロストすれば、すぐさま激しくプレスをかけてくる。つまり守から攻へ替わった場面で慌てて縦、横へとつなごうとせず、斜めに相手守備陣を崩すパスやドリブルを意識すれば、ドイツ特有のプレスをかわせると思われる。

そして最後はセットプレーだろう。イタリア戦の最後の失点もCKからだった。となると、事前に練習したことを再現できるセットプレーの精度をできるだけ高めることは重要だ。1%でも勝利の確率を上げられるなら、その可能性を追求しない手はない。(浜野裕樹=UEFA・A級コーチ)