FIFAワールドカップ北中米大会(W杯)が最終盤を迎える中、その盛り上がりとともに“間違い電話”が増えて困惑しているサッカー関連企業がある。
その企業は日本のサッカースパイクメーカーのYASUDAだ。代表取締役の佐藤和博氏は「W杯が近づいてきた頃から、また徐々に間違ったクレーム電話が増えてきました。どの“ヤスダ”かまではわかっていないまま、インターネットで検索してうちの名前が出てくると『ここか』と電話をかける人が多いみたいです」と頭を悩ませる。
間違い電話をかけている人たちがクレームを伝えたい先は、この「株式会社YASUDA」ではなく、海外サッカークラブのジャパンツアー(親善試合)などのイベント事業や、アカデミー事業を行っていた「株式会社ヤスダグループ」とみられるが、サッカーに関わる「ヤスダ」という社名により、迷惑電話を受け続けている。
ことの始まりは「ヤスダグループ」が、伊東純也や中村敬斗らが所属したフランス1部スタッド・ランスや、久保建英が所属するスペイン1部レアル・ソシエダードのユニホーム胸スポンサーになったことだった。佐藤氏は「この頃から多くの人から連絡を受けるようになりました」と振り返り、ヤスダグループが急速に広げていた影響力を感じるようになっていたという。
決定打となったのは、昨年7月の騒動だ。ヴィッセル神戸が7月27日にスペイン1部バルセロナと親善試合を行う予定が、同23日になってバルセロナ側が「プロモーターによる重大な契約違反により、今週日曜日に日本で開催予定だった試合への参加を中止せざるを得なくなった」と中止を発表。日本のプロモーターとして動いていたヤスダグループからの支払いがなかったためとされている。その未払い金は500万ユーロ(約8億5000万円)。
その後、神戸の三木谷浩史会長が親交のある元DFジェラール・ピケ氏の紹介でバルセロナ幹部と交渉し、航空会社も動かして手配を進めるなど手を尽くして何とか実現されたが、YASUDAはこの騒動に巻き込まれることになった。
一時は電話が鳴り止まず「チケットを買ったのに、バルサが来ないなんて困る。どうしてくれるんだ」、「せっかく楽しみにしていたのに」とクレームの嵐。ヤスダグループのロゴがユニホームから消えた際にも「うちがひっそりと(スポンサーを)やめたように思われて『お金を払わなかったのか』と誤解されました」と、間違った認識により、被害を受ける形になった。
それ以降、当のヤスダグループからは何の発信もされておらず、「YASUDA」への間違った認識がぬぐいきれないままとなっている。それがW杯北中米大会でサッカー熱が高まったところで、再び過熱。日本代表の戦いで盛り上がった後も、間違い電話は止まっていないという。神戸の千布勇気社長によると「当時起こったことに対して、精算すべきところは粛々と動いている」ということだが、ヤスダグループの公式ホームページは25年7月23日を最後に更新が止まったまま。YASUDAにとっては悩ましい状況が続いている。
昨年7月には、ヤスダグループと無関係であるという主旨の声明を自社ホームページとSNSで発表。それにより一時は落ち着いていたというが、約1年が経過し、再び同じ悩みを抱えることになっている。
YASUDAは、職人技術とプレーヤー目線に立ったものづくりにこだわりを持つ日本の古参サッカースパイクメーカーだ。1932年(昭7)に創業し、多くのプレーヤーに愛された。02年に倒産し、一度はサッカーシーンから姿を消すことになったが、18年に佐藤氏が中心となって再起。育成年代の選手が使いやすいよう、高品質なシューズを低価格で提供することを重視し、最新モデルも2万円前後の価格帯で展開している。価格が高騰しがちな現代のサッカースパイク市場において、良心的なブランドを目指している。
数多くの名品を手がけてきたメーカーだっただけに、特に40代以上のサッカー経験者にとっては「ヤスダ=スパイクのYASUDA」と認識するのも無理はない。そう認識されていることに喜ぶ一方で、佐藤氏は「落ち着いて対象先を確認していただけるとありがたい」と慎重な対応を願っている。【永田淳】


