口は災いの元、とはよく言ったものだ。
W杯で再びイングランドとアルゼンチンが激突する。これまでのW杯史に刻また因縁カードとしてよく知らている。
なぜ、そんなに仲たがいするのか?
1982年に南大西洋のフォークランド諸島の領有権をめぐり、英国とアルゼンチンが軍事衝突した。だがそれは発端ではない。
古くは1966年イングランド大会だ。準々決勝で両チームは顔を合わせた。アルゼンチンの主将ラティンが退場処分を受けたことを発端に大荒れとなり、試合放棄寸前とまでなった。
ピッチ上には敵意と憎悪が充満した。イングランドが1-0と勝利した試合後、ユニホーム交換もしなかった。ラムゼー監督らイングランドはアルゼンチンをこう言って蔑んだ。
「アニマル」
失礼千万。尊厳を傷つける発言は禍根を残した。もともと欧州と南米の対抗心は強かったが、差別的発言に南米側が激怒したのは言うまでもない。
その背景にあるのは15世紀末からの大航海時代だ。欧州の国々は世界各地に領土を広げ、貿易ルートをつくり上げた。富を持つ宗主国に対し、伝承されたサッカーをもって見返すことは1つの仕返し策だった。
欧州代表と南米代表がクラブ世界一をかけて争うインターコンチネンタルカップは「アニマル」発言あたりからラフプレーが目立つようになった。当該国同士のカードとなった68年マンチェスターU対エストゥディアンテス戦はサッカーでなくただのケンカだった。ボクシングさながら「フットファイト」と呼ばれた。
その後も大事な選手をケガさせないよう、欧州から南米行きを拒否するチームも出た。そこで81年から中立地での一発方式の大会へと生まれ変わった。日本のサッカーファンには懐かしのトヨタカップである。
W杯でのイングランド対アルゼンチンと言えば、まずは86年メキシコ大会でのマラドーナの「神の手」「5人抜き」。98年フランス大会では、アルゼンチンのシメオネの挑発に乗ったベッカムの報復退場。そして02年日韓大会ではそのベッカムが4年越しの雪辱ゴールを奪い勝利するというドラマもあった。どれも名勝負として記憶に残る。
W杯では24年ぶりの対戦だけに、現在の選手たちに遺恨はない。ただ歴史を踏まえ「絶対に負けてはいけない相手」と擦り込まれている。メッシならマラドーナから受け継いだものがあり、ケインは先輩リネカーから学んでいるだろう。
全力プレーでぶつかり合い、試合後に健闘をたたえ合う姿を見たい。もう舌禍はいらない。【佐藤隆志】



