<アジア大会:陸上・男子マラソン>◇第15日◇3日◇韓国・仁川

 公務員ランナーの挑戦は、涙の銅メダルで幕を閉じた。先頭集団で勝機をうかがった川内優輝(27=埼玉県庁)だったが、最後のトラック勝負に太刀打ちできず2時間12分42秒で3位。日本代表戦線からの一時撤退を表明した。3人によるトラック勝負を制した初マラソンのハサン・マフブーブ(32=バーレーン)が、2時間12分38秒で金メダル。1秒差で続いた松村康平(27=三菱重工長崎)が銀メダルを獲得した。

 早口は、いつものまま。そのハイトーンが涙声に変わる。「つらいです。悔しいっす。金や銀が目の前に見えてるのに、これで悔しくなかったらアスリートをやめた方がいいっすよ」。涙目で川内は声を振り絞った。金メダル以外なら、来年の世界選手権挑戦を断念=日本代表戦線からの撤退を宣言して臨んだ38度目のマラソン。2人の背中を、目前に見せつけられての終戦だった。

 誤算その1

 8人の先頭集団で迎えた27キロ過ぎ。川内のペースアップに3人が脱落。持ちタイムから先頭集団8人は想定外だった。「集団が多すぎたので30キロまでに絞りたかった。ただ余力が残されていれば良かった。結果的にバーレーンの選手に有利になる仕掛けだったかも」。無駄なスタミナを消耗した。

 誤算その2

 30キロ過ぎの給水。手を伸ばした川内の腕に、マフブーブの体がぶつかり取り損ねた。「金も銀も銅も、どうでもいい。邪魔されたバーレーンの選手に負けてたまるか」。接触は付きもの。冷静さを欠いた。動揺からか直後、バトオチルのペースアップに付けず4秒差に後退。1キロ半で追いつくも、スタミナ消耗と引き換えだった。

 誤算その3

 40キロ手前で「3人に絞るために」とスパートをかけバトオチルを落とす。ここで微妙に心が揺れる。金メダル以外は欲しくなかったのが…。「少なくても、これでメダルだと気持ちが下がってしまったのかも」。トラック勝負に持ち込む余力はない、と無意識に悟ったのだろう。

 スタミナを奪われ意識がかすむ中で、死力も知力も尽くした。迷言、珍言はあっても川内に二言はない。来年の世界舞台は捨てる。国際大会初の個人メダル。それを無にしないための次なる挑戦は、来年12月の福岡国際。2年後のリオ五輪選考会だ。「地力をつけて2年後に。(代表戦線に)戻って来られなかったら、そこまでの選手ということです」。涙は乾いていた。【渡辺佳彦】