異例の「期待厳禁令」が発令された。日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダー(64)が9日、オンラインでの、びわ湖毎日マラソン(28日)招待選手発表会見に登壇した。

招待選手の東京五輪代表の中村匠吾(28=富士通)について、瀬古マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは「リーダーとしては花火を上げたいが、無理がある。オリンピック選手=日本記録という過度な期待を持たれても困る。彼のプレッシャーを緩めてあげたい。優しい目で見てほしい」と言った。

もちろん、能力を見限っているのでない。それは「親心」から。実は中村のコンディションが万全ではないという。「彼の力からすれば、3割4割」。中村は全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)では4区でトップに立ち、優勝に貢献したが、その後の奄美大島の合宿では「いい練習ができていない」と理由を説明。選手が自ら口にしにくい部分を、代弁した。

会見は話題を提供し、大会を盛り上げる意味もある。瀬古マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは「本当は記者会見でこういうことは言ってはいけないのかもしれないけど」としつつ、「無理をさせてはいけない」と強調した。あくまで本番はオリンピックの場だ。「花火はオリンピックの場であげたい」と語った。

五輪代表の肩書は、重圧にもなる。しかも大会は1年延期で、今は目に見えないウイルスとの闘いも強いられている。五輪が無くなる絶望も、五輪を戦う重圧も知るリーダーは「目に見えない疲れが選手をむしばんでいるように感じる。選手は周りから「オリンピック頑張って」と必ず言われていると思う。「頑張れ」という言葉が、いいのか、悪いのか分からない」。そう大きな期待と背負い続ける選手の心境をおもんぱかった。