消えた、伝統の優勝旗…。今年1月1日の全日本実業団対抗駅伝(通称ニューイヤー駅伝)を制した富士通が16日、優勝旗が所在不明と公表した。

【一問一答】ニューイヤー駅伝の優勝旗紛失の富士通「会社に全責任」誤って廃棄可能性も>

来年の大会へ返還準備をする中で発覚。紛失、破棄、盗難などを含めて捜索中と説明した。同社は新型コロナウイルスの影響下での働き方改革で、23年3月までにオフィス数を半減する。優勝旗を保管していた東京都内の本社事務所でも移動作業が行われていた。マラソン日本記録保持者の鈴木健吾らも所属する名門が、よもやの失態を犯した。

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元旦の試合当日まで16日。思わぬ形で大会に注目が集まった。この日午前10時、富士通がリリースを流した。「優勝旗の所在不明について(お詫び)」とタイトルが付けられた資料には、現在進行形のピンチが説明されていた。時系列を追う。

11月27日だった。返却作業のため、東京・汐留地区にある本社の総務部門を探したが、保管ケースが見当たらない。棒の全長は201センチ、濃い緑の旗は縦106センチ、横115センチ。大きな荷物はすぐに見つかるはずが、一向に発見されなかった。

その後の調査で、最後に目視されたのは6月12日だと判明した。この直前から、本社では度重なるフロア移動が行われていた。総務部門は8階から31階へ。最終確認された6月12日には8階の廃棄物を処分し、残置したものは9階へ移し、その後に8階を解約。9月には9階の廃棄物も処分し、9階も解約されていた。コロナ禍での働き方改革で、23年までにオフィス数を半減させている最中での所在不明となった。

同社は今月8日に大会を主催する日本実業団陸上競技連合に報告し、この日午後3時にあらためて同連合に報告と謝罪に訪れた。遺憾の意を示された後に会見。平松浩樹・執行役員常務は「厳しい言葉を頂戴した。大変重要なものを預かっている意識が十分ではなかった」とし、今後も捜索を継続するとともに、弁償も検討し、歴代優勝の15チームへの謝罪を行っていくとした。盗難を考えて警察には相談しているが、誤って廃棄した可能性も否定しなかった。

陸上部は今年の大会で12年ぶり3度目の優勝を飾った。マラソン日本記録保持者の鈴木や、今夏の東京五輪にもマラソン代表中村匠吾ら3人の長距離選手を輩出している名門。選手らには14日に経緯を説明しているという。

全日本実業団対抗駅伝は57年(昭32)に始まり、実業団男子の駅伝日本一を決める権威ある大会。88年から「ニューイヤー駅伝」として1月1日に群馬・前橋市を舞台に開催され、来年で66回目を迎える。元日の風物詩に欠かせない優勝旗は、果たしてどこへ-。

◆全日本実業団駅伝 1957年(昭32)に始まった実業団駅伝日本一を決める大会。88年から1月1日開催が固定化し、通称「ニューイヤー駅伝」と呼ばれる。コースは群馬県庁をスタート、ゴールとし、7区間100キロ。毎年11月の東日本実業団など秋に行われる各地の予選会を通過した37チームが出場する。最多優勝は旭化成の25回、コニカミノルタ(含コニカ)の8回、エスビー食品とカネボウの4回が続く。