“マイル侍”が、史上初のメダルに肉薄した。男子1600メートルリレー決勝で、日本が2分59秒51と日本とアジアの新記録を樹立。世界大会では04年アテネ五輪に並ぶ4位入賞を果たした。近年は400メートルリレーの陰に隠れていたが、マイルリレーが復活ののろしを上げた。

男子35キロ競歩では川野将虎(旭化成)が銀メダル。大会が10日間の幕を閉じ、日本は03年パリ大会に並ぶ4個のメダルを獲得した。

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日本の“マイル復権”を示すには十分な結果だった。03年パリ大会(7位)を最後に決勝にも進めていなかった。近年は400メートルリレーに注目が集まっていたが、エースのウォルシュ・ジュリアン(25=富士通)は「4継だけじゃなくて、昔みたいにマイルも日本のお家芸という形で復活させればいいと思っていた」と胸を張った。

04年アテネ五輪以来の4位に入った。第1走者の佐藤風雅(26=那須環境)は5番手で、2走の川端魁人(23=中京大ク)につないだ。「前半のスピードが予選に比べて明らかに速かった」。世界の本気を目の当たりにした川端は6番手に後退。第3走者のウォルシュに巻き返しを託した。

16年リオデジャネイロ五輪から代表経験を積むエースは、決意を込めた。「自分に委ねられた。自分の走りをしなければ」。200メートル付近で1人追い抜き、さらに1人抜いて4番手に浮上した。アンカーの中島佑気ジョセフ(20=東洋大)は3番手のベルギーを猛追したが、0秒79差で届かなかった。「あと1個上げればメダルだった。目の前でその目標が断たれたのは悔しい」。チーム最年少の現役大学生は唇をかんだ。

日本陸連の強化委員会で男子短距離の土江寛裕ディレクター(48)は「19年から次世代事業でさまざまな取り組みをし、海外や国内で合宿をしてきた。その成果が結実しつつある。確実に世界のトップに近づいてる」とした。

米国にウォルシュらを派遣し、今大会400メートルを制したマイケル・ノーマン(米国)と練習をさせるなど、強化を図ってきた。今季は4人中3人が自己記録を更新。今大会の400メートルで初めて佐藤とウォルシュの2人が準決勝に進むなど層の厚みも増してきた。邑木隆二コーチは「ウォルシュにおんぶに抱っこではなくなった」と実感を込めた。

スタート前の選手紹介で、佐藤は右手で刀を抜くような“侍ポーズ”を披露した。23年ブダペスト大会、24年パリ五輪では400メートルリレーとの“ダブルリレー侍”でのメダル奪取に期待がかかる。

史上最高順位にも、誰ひとり満足していなかった。「日本記録は当たり前。メダルを狙っていたので喜びより悔しさが大きい」とウォルシュ。史上初の快挙は持ち越しとなったが、そのときは確実に迫っている。【佐藤礼征】

◆1600メートルリレーとは 1人が400メートルずつ走る。4人の総距離が約1マイルであることから「マイルリレー」と呼ばれる。第1走者はセパレートコースを走り、第2走者はバックストレート以降オープンレーンになる。前日本記録の3分0秒76は96年アトランタ五輪決勝(苅部俊二、伊東浩司、小坂田淳、大森盛一)と、昨夏の東京五輪予選(伊東利来也、川端魁人、佐藤拳太郎、鈴木碧斗)。