38歳の岡本直己(中国電力)は、年齢を言い訳にしないようにしている。
18年大会の王者は、14歳年下の名取燎太(24=コニカミノルタ)と熾烈な優勝争いを繰り広げた。
意地を示したのは、残り3キロを切ってからだった。岡本を含めた4人の集団走が続く中、名取が飛び出した。安定した走りで後続を突き放す。その時点で勝負あったかに思われた。
しかし、岡本は食らいついた。
「最後、意地だけは見せましたね。やっぱり勝ちたかったので」
懸命の追走で名取に並ぶ。逃げ切りを許さなかった。
ただ、抜き去ることはできない。最後はラストスパートで競り負け、2位でフィニッシュ。優勝に4秒届かず、1時間32分01秒でゴールテープを切ると両手で顔を覆った。
「追いつけたので、追い越したかったですね。いつもそうなんですけど、ラスト2キロくらいになったら、駅伝でも、マラソンでも体が動くので。何とか追いついたんですけど、最後は(脚力が)残ってなかったです。最後は気持ちで負けていました」
84年生まれの岡本は、5月に39歳を迎える。気力では脚力をカバーできなくなっていることを正直に認める。
「疲労は抜けにくくなっています」
肉体的な変化だけではない。レース時の心境にも変化が生じている。
「ちょっと頭で一瞬、言い訳ができちゃって。若い選手に負けちゃったら仕方ないかな、と」
加齢による心身の変化。ただ、それを逃げ道にはしたくない。
言い訳を探したくなる時は、自らを客観視し、視線を外界へ向けるようにしている。
「年齢を言われますけど、キプチョゲ選手も同い年なので。世界のトップが。それを言い訳にしちゃダメなのかなって思いますね」
ケニア出身のエリウド・キプチョゲも84年生まれ。04年アテネオリンピック(五輪)5000メートル銅メダリストは、08年北京五輪で銀メダルを獲得。16年リオデジャネイロ五輪、21年東京五輪ではマラソンで連覇を達成した。
国内を見渡しても、今もなお同世代の活躍は際立っている。
「(同い年の)今井正人くんもいますし、後輩には上野(裕一郎)くん、佐藤悠基くん、川内(優輝)くんとか」
ライバルの名を一通り挙げると、自分に言い聞かせるように続けた。
「まだその方々が現役バリバリで走られているんで、言い訳にはしたくないところですね」
静かに引き締めるような口調で言った。
岡本は今年10月開催のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)の出場権を得ている。年齢に逃げることなく、淡々と準備を重ねている。【藤塚大輔】