男子はレース半ばまで日本記録を上回るペース、山下と其田が2時間5分台を出した。復帰2戦目の大迫ら新たに5人がMGCの出場権を獲得。これで獲得者は計62人となった。東京五輪前の19年大会(32人)よりも基準が厳しくなっていることを考えれば、層が厚くなったことは喜ばしい。

多くの選手が高速シューズに慣れたことも、レベルアップの要因だ。そして、MGCの存在も大きい。目標が明確になり、選手や指導者の意識が変わった。この日も駒大の山野が途中までいい走りをしたように、箱根駅伝からマラソンで世界を目指す選手も増えた。

企業チームも同じだ。これまで、陸上部の優劣を表すのは駅伝の成績が主だったが、今は「MGCに何人出したか」を競い合うようになった。本気でマラソンに取り組むチームが明らかに増えた。これも、MGC効果と言っていい。

もちろん、大迫らスター選手が育ってきたこともレベルアップにつながった。選手にとって最高の目標。勝つことがモチベーションになる。山下も其田も自信になったはずで、そういう意味でも大迫の復帰は大きい。大迫自身もまだまだ巻き返してくるはずだ。

ただ、層の厚さだけでは喜べない。確かに日本選手のレベルは上がったが、世界はまだまだ上。今の状況では、パリ五輪も苦しい。

この日、残り5キロで外国人勢がスパートした時、日本選手は誰もついていけなかった。つぶれることを恐れずに、勇気を出してついて行ってほしかった。特に、既にMGC出場権を持っている選手には積極的なレースをしてほしかった。世界を相手にしてほしかった。

山下や其田には2時間4分台の可能性も感じるが、それでもまだ、世界では勝てない。さらに、その上を。そのためにはスピードが必要。30キロ過ぎまで余力を残し、ラストでのスピードの緩急に対応できる力をつけること。簡単ではないが、それができなければ世界と戦えない。(日本陸連副会長・マラソン強化戦略プロジェクトリーダー)