陸上女子で21年東京オリンピック(五輪)1500メートル8位入賞し、3月末に豊田自動織機を退社した田中希実(23)が3日、都内で会見を開き、スポーツ用品メーカー「ニューバランス」に所属することを発表した。実業団からプロに転向し「世界のトップ」へ向け、新たなスタートを切る。

3月27日に退社を発表した際、豊田自動織機のホームページを通じ「自分自身の甘えによりハングリーさが失われてきた」とコメントした通り、会見でも「ハングリー精神が弱まってきている」「自分自身への甘えが目立ってしまうようなレースが増えてきた」と繰り返した。

昨年7月の世界選手権(米オレゴン)では女子800、1500、5000メートルの3種目に出場。周囲からは「挑戦する姿勢だけでもすごいよ」とたたえられた。国内では十分に存在を認められるようにもなった。

その中で、ずっと葛藤を抱えていた。

「自分の中では挑戦できていると思えなかった。本当の意味でのチャレンジってなんだろうって、分からないままチャレンジしていても、それは見せているだけになってて、パフォーマンスになってしまっていた」

“挑戦”がフォーカスされる傍らで“結果”との向き合い方にも思い悩んだ。

「去年は1年間ずっと、挑戦したいのかしたくないのか、自分でも分からなくて。でも結果が出ないとモヤモヤするし。結果を求めて挑戦したわけではないし。結果を心の中で求めていたから、挑戦するだけでは満足しないだろうし…」

進むべき方向性を定められないまま時間が過ぎた。環境や自分自身へ「甘え」を感じるようになった。

その日々の中、今年2月に米国ボストンのニューバランスチームとともに練習やレースに参加。懸命に「プロの集団」へ食らいつこうとした。その実感が胸に残り続けた。

「私自身の居場所を作ろうと取り組んでいたことが、今振り返ったら『ハングリー精神』だったのかなって。単にその人たちの雰囲気を感じるだけでなく、自分自身もその中に入るために必死だったというのが、経験として積めました」

予(あらかじ)め整えられた環境ではなく、自ら居場所を作ること。それこそが甘えを絶つことであり、ハングリーさを取り戻すことだと思い至った。3月中旬にプロ転向の決断を下した。

今後は海外での時間を増やしながら、8月下旬の世界選手権(ブダペスト)やその先へ努力を続ける。侍のような境地で、次の1歩を踏み出す。

「私自身はこれからが勝負だと思っていて、プロになりたいと思ってやってきたというより、より速くなりたいと思ってやってきた中でのチャプターだと思っている」

飽くなき向上心を胸に、新たな章を描いてみせる。【藤塚大輔】