“山の妖精”がトラックでも強さを示した。

今年の箱根駅伝で山登りの5区で区間賞を獲得し、「山の妖精」の愛称で知られる城西大・山本唯翔(4年)が、男子1万メートル決勝を29分29秒98で制した。7月下旬開幕のFISUワールドユニバーシティゲームズ(中国・成都)の日本代表入りを確実とし「1番を取ることに意味があったので、今日はそれができてすごく自信になりました」と笑みを浮かべた。

同種目のエントリーはわずか3人。さらに出走予定だった駒大・伊藤蒼唯(2年)の棄権により、レースは関西大・亀田仁一路(4年)との一騎打ちとなった。

山本はエントリーした時から、勝つための練習に徹してきた。ポイント練習であえてペースを上下させたり、スパートを想定して一気にペースを上げたり。「気持ちの面でも、練習を通して準備してきた」と自信を蓄えていた。

緻密な対策は本番で生きた。トレードマークの白い帽子をかぶった山本は、5000メートル過ぎから前に立ち、徐々にペースアップ。8000メートル以降はロングスパートで相手を突き放した。「だいぶペースの上げ下げがあったりして、亀田くんには申し訳なさもあった」と打ち明けつつ、「勝負という面では、この先も同じような場面があると思った」と冷静に振り切った。

滝のように流れる汗をタオルで拭った後、さわやかな表情でかみしめた。

「この競技をやってきて、箱根駅伝でもそうですけど、それ以上に今日勝てたことはすごくうれしかった」

今季のトラックシーズンは、「得意」な1万メートルを軸に勝負する。同種目の自己ベストは28分25秒21。「28分1桁の秒数から27分台を目指してやっていきたい」と志は高い。

同学年には、1万メートル日本人学生歴代3位の駒澤大・鈴木芽吹(めぶき)や今年の箱根駅伝で2区区間賞の中央大・吉居大和ら、実力者がそろう。かつては「追いつけないだろうって、勝手に自分の中で限界をつくった」こともあった。

今は新たな思いが胸を覆っている。ひとつひとつの言葉に力を込める。

「4年生になって、強い選手たちにも食らいつけるようになってきたと実感しているので、仮に追いつけなかったとしても、その選手たちと互角に戦えるようになるくらいまで、諦めずに今後はやっていきたい」

最後の箱根路では2区を走りたいと心に決めている。その時に勝ち切れるように、ライバルたちに追いつく努力を重ねていく。【藤塚大輔】