21年東京五輪(オリンピック)女子1500メートル8位入賞の田中希実(23=ニューバランス)が自信を胸に刻み、世界舞台へ突き進む。

15日、アジア選手権(タイ・バンコク)を終え、羽田空港に帰国。8月の世界選手権(ブダペスト)では、1500メートルと5000メートルでの代表入りが濃厚で「最低限は入賞を目指して取り組んでいきたい。その上で、より上の成績がついてきたら光栄なことだと思うので、今できることに向き合いながら頑張りたい」と力を込めた。

田中は8日にフィンランドの競技会で5000メートルに出場。14分53秒60で世界選手権の参加標準記録(14分57秒00)を突破した。12日のアジア選手権1500メートルでは4分6秒75の大会新記録をマークし、金メダルを獲得した。

アジア選手権では、当初は中盤から仕掛けるプランを画策していたが、父健智コーチからは「ビルドアップのように上げていって勝ったほうがいいのでは」と提案を受けた。助言を耳にした時は「しんどいレース内容になる。そのしんどい思いをして勝てなかったら嫌だな」と迷いが生じたが、「それで勝てたらすごく自信になる」と意を決した。

狙い通りに序盤で先頭に立つと、後半でも失速することなく走破。「だいぶ世界基準に近づきつつある」と手応えを得た。

直前での“方針転換”をいとわなかったのは、今季の経験が糧となっているからでもある。シーズン序盤の4月前半は、本来の力を発揮できないレースが続いた。そこから米国遠征や岐阜・御嶽山での合宿をはさみ、タイムを伸ばしていった。

「今シーズンは(記録が)上がったり、下がったりがすごく激しいなって思っていて。だからこそ、下がっても、また上がるんだという経験を自分に刻み込むことができている」

壁に直面した時に、どうはい上がるのか-。苦しい日々の中で、希望を見いだそうともがいてきた。健智コーチから「レースに出るのをやめよう」と諭されても、「殻に閉じこもったら、その殻を破ることができない」と走ることをやめなかった。

「どんな試練があっても、いつかは乗り越えられる。そういうシーズンを今のところ送れているかなと思っていて。これから世界陸上へ向けて、上がっていくのか、下がっていくのかは分からないですけど、どんな状態であっても全力を尽くすスタンスを学ぶことができています」

心の成長を実感する田中が、この夏も全速力で駆けていく。【藤塚大輔】