【ブダペスト(ハンガリー)=藤塚大輔】今大会の日本選手団主将、佐藤拳太郎(28=富士通)が44秒77の日本新記録を樹立した。91年に高野進が打ち立てたトラック種目最古の日本記録44秒78を32年ぶりに100分の1秒更新。1組2着で準決勝進出を決めた。44秒97の佐藤風雅、45秒15の中島佑気ジョセフも含め、初となる日本勢全員予選突破も遂げた。初のメダル獲得を狙う1600メートルリレーに向けても弾みをつけた。

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32年間も止まっていた時計の針をついに動かした。電光掲示板に日本新のタイムが映し出されると、佐藤拳が左拳をギュッと握り締めた。「ひとまず日本記録を達成できた」。重い重い扉をこじ開け、東欧の地で静かに喜びをかみしめた。

4度目の世界舞台ながら個人は初出場。冷静な性格も相まって、序盤は「落ち着きすぎた」。前半200メートルは予選突破圏外の5位だったが、ここから速度を上げた。200~300メートルのタイムは1組トップの10秒98。後半、加速して3人を抜き去った。「まだまだベストではない」と振り返りつつ「想定通りのレース運びだった」とうなずいた。

今季は自分を見つめ直してきた。これまでは前半のスピードにこだわってきたが、後半で失速する課題を改善するため一定のフォームで走り切ることを重視。練習では、タイムよりも動画で走りを確認する時間を増やした。「7、8割の重点を置いて練習してきました」。今大会の前も動画を見続けており「良かった時のイメージを頭に刷り込んだ」と自信を深めていた。

冷静に自己を省みる性格は、7月のアジア選手権でも同じだった。当時日本歴代2位の45秒00をマークした後も、感慨に浸る様子は全くなかった。「ここで44秒99を出せないところが弱い。うれしさより悔しさが先にきた」。真摯(しんし)に向き合う姿勢が、最古の記録更新を引き寄せた。

その姿に触発されるように、佐藤風と中島も準決勝へ進出。初のメダル獲得の期待が高まる1600メートルリレーへ向けても、期待値が高まった。4位と健闘した昨年大会の代表にはなれなかった佐藤拳の胸に、自覚が宿る。「マイルチームを引っ張っていかないといけない」。まずは22日の準決勝でさらなる個の進化を示し、勢いに乗る400メートル種目の加速度を増幅させる。

◆佐藤拳太郎(さとう・けんたろう)1994年(平6)11月16日、埼玉・所沢市生まれ。狭山ケ丘中までは野球部。豊岡高から陸上を始め、城西大で400メートルに専念。17年に富士通入社。リオデジャネイロオリンピック(五輪)、東京五輪では1600メートルリレー代表。世界選手権は15年北京、17年ロンドン、19年ドーハの各大会代表で昨年は落選した。173センチ。血液型A。

○…現在は東海大体育学部競技スポーツ学科の教授を務める高野氏は、X(旧ツイッター)で「佐藤拳太郎選手、日本記録更新おめでとう!準決勝に進んだ風雅選手、ジョセフ選手もいい走りでした。準決勝が楽しみです。チームジャパンの底力見せて下さい!」と祝福した。2時間後には「世界陸上見ていてゆっくりでもいいから走りたくなりました」とも投稿した。91年の日本選手権で44秒78の日本記録を樹立。直後の世界選手権で日本勢最高となる7位入賞を遂げた。

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