【ブダペスト(ハンガリー)=藤塚大輔】世界ランキング1位の北口榛花(25=JAL)が66メートル73で日本女子のフィールド種目で初となる金メダルを獲得した。前回の銅に続く2大会連続メダルは日本女子で史上初。日本陸連が定めた24年パリ五輪の選考基準を満たし、2大会連続の五輪代表に内定。陸上ではパリ五輪内定“第1号”となった。4位で迎えた最終投てきで強さを発揮し、大逆転で優勝。天真らんまんなスロワーが世界一の称号をひっさげ、パリへ突き進む。

北口が頭の上で両手をたたく。呼応するように、ドナウ川沿いのスタジアムには大きな拍手が響き始めた。4位で迎えた最終投てき。大歓声の中心で、心の中で言い聞かせた。

「自分は強いんだぞ」

足踏みをし、リズムに乗せて助走を踏む。ブダペストの夜空を目がけ、やりを放った。思いは叫びになった。「やぁぁぁ!」。オレンジ色のやりは、大きな弧を描いた。66メートル先の芝生に突き刺さった瞬間、地響きのような歓声が湧き起こった。「自分は最終投てきに強いとずっと言われてきた」。自信があった。

1投目でルイスウルタド(コロンビア)が65メートル47をマーク。今季世界4位のスローを見せつけられる中、北口は1投目で右ふくらはぎを痛めた。ただその間も、テレビカメラを向けられれば笑顔で手を振った。カステラやハイチュウを口にする余裕もあった。3投目で63メートル台に乗せ、メダル圏内につけたものの、6回目の試技の途中で4位へ転落。暗雲が垂れ込めても、最後にひっくり返せると信じていた。「絶対、今日も負けたくない」。

最終投てきにめっぽう強い。昨年世界選手権も5位から銅メダル。7月のダイヤモンドリーグでも3位から逆転した。土壇場で力を発揮できるのは、その時の最善を尽くすことができるから。今季はオフの走り込みを経て、助走速度のアップに挑戦。ただ、2位に終わった6月の日本選手権後には従来の弾む助走へ修正した。「リズムに合わせるのが自分の投げ方」。この日も1投ごとにやり先の軌道を上方へ修正し続けた。

19年から単身でやり投げ大国のチェコへ渡り、心も強くなった。自ら望んだ渡航だったが「時間も違うし、ご飯も違うし、友達もいないし、家族もいない」と孤独を感じることもあった。それにも屈せず、会ったばかりのセケラク・コーチに食い下がった。コロナ禍ではチャットアプリを使って、慣れないチェコ語で練習メニューをやりとり。なりふり構わず技術を吸収するうちに、鋼のメンタルも養われた。

世界ランキング1位で迎えた今大会。スタンドには日本人だけでなく、チェコでお世話になった人がたくさん詰めかけていた。「全然緊張しなくて、すごく楽しめました」。そんな環境も力に変えたからこそ、世界の大舞台での最後の1投も気負わなかった。「今日だけは世界で一番幸せです」と屈託のない笑みを浮かべた。

世界一の称号を手にしても、自分の心に身を委ねていく。「プレッシャーがかかるけど、あまり気にせずに競技ができたら」。来夏のパリへも、その時の自分を信じて突き進む。