再び、大船渡を訪問した。

あっという間に時は過ぎて、2011年3月11日から約7年半だ。


私は東北を中心に多くの被災地を訪れている。

大船渡は、東日本大震災復興支援財団「東北『夢』応援プログラム」を通して1番多く訪問している被災地。今回もこのプログラムの中間発表の水泳指導をするためだ。

基本的には月に1度、子供たちから動画が送られてきて、私はその動画を通して遠隔で指導する。そのプログラムの始めと終わりに、直接指導するために現地へ赴く。ただ今回はその間に1度、子供たちの成長を肌で感じたい、私自身の泳ぎを見せたい、と思い、中間発表を行うことになった。

毎月の動画でも子どもたちが1カ月どのような練習をしていたのか、どのような精神状態なのかが分かる。「ちょっとストレッチが足りないかな?」とか「あんまり注意するところ理解できてなかったかな?」「すごい集中できてる」といったことを感じられるのだ。

私自身の指導も改善点を見つけることもできるし、動画がデータで残っているというのはとても便利で、私には合っている。

4年前から大船渡の子供たちと触れ合っているが、心の復興もでき始めているように思う。小学生は当時のことは多くは覚えていないが、中学生たちは夢を持ち、自身の未来に向かっている。私が言ったことを真摯(しんし)に受け止め、一生懸命聞く姿勢をみるといつも私は日ごろの生活にも光が差す気分だ。


なぜか「心があたたまる」。そんな場所が大船渡だ。


また、このプログラムを通して貴重な出会いもあった。

現在、大船渡初のワイナリーを経営している及川武宏さんだ。及川さんのお子様も指導させてもらっている。

大船渡出身。元々、ワイナリーを大船渡で設立するために準備を進めていたが、震災で1度はあきらめることになったという。その後、この東日本大震災復興支援財団に入り、ジュニアアスリート育成や子供の進学を支援する奨学金支給システムに関わった。そして再びワイナリーに取り組み、設立にこぎつけた。

名前は、スリーピークス。

その由来も、とても心温まるものだった。


及川さんがワインと出会ったニュージーランドで住んでいたゲストハウスが「Peak Backpackers」(ピーク・バックパッカーズ)という名前だった。そのPeakに三陸の「三」(スリー)をつけ、ワイナリーの名前とした。

別の意味もある。<1>新しい文化を創造する<2>ワインを一流にする<3>子どもたちに夢を与えられる環境を創る。この3つのPeakを目指したいと考えたという。


私は復興のためにワイナリーが建てられたと思っていたが、及川さんがずっと夢を追ってきた結果だった。もちろんこの町の希望にもつながっているはずだ。

ここのワインとシードルを購入し、近所のお店で近所の方たちといただいた。

そこでまた奇跡が生まれ、そのお店は、スリーピークスのワインを仕入れてくれるようになった。

人の想いと想いがつながり、形になる。

私はこの瞬間が大好きだ。


想いは必ず通じる。


スリーピークスの及川さんは「大船渡や三陸に関わる人を増やし続けていきたい。ワインやシードルといったコンテンツで、三陸の食文化と融合させながら新しい文化を創っていきたい」。また想いは膨らみ「100年続く新しい文化を創造する」。


私は、この「東北『夢』応援プログラム」を通して、大船渡の方たちと出会うことができ、たくさんの素晴らしい見えないものに気づかされている。


先日、うれしいサプライズがあった。

「突然来たかったんですよね!」

前触れもなく東京に来た及川さんが、連絡をくれたのだ。

東京でワインを仕入れてもらっているお店で会い食事をすることになった。

東京と大船渡がワインでもつながった。


人との縁は不思議だ。

想いを持った方たちとの出会いは宝物だ。

これからも、子供たちへ水泳を教えていきたいと心の底から感じることができている。

いつも本当に大船渡のみなさんありがとうございます。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)