東京オリンピックパラリンピック競技大会(東京2020)は、すべてが「初めてのこと」だ。昨年3月、新型コロナウイルスによって史上初の延期が決まり、そこから全く経験したことがない時間が流れている。

しかし変化を強いられたことで、ここからまた異なったスポーツの可能性や価値が必要になると感じているという段階でもある。

そんな中、東京パラリンピックは5月16日に開幕100日前を迎える。4月3~4日には国立代々木競技場で車いすラグビーのテストイベントが行われ、4月26日にはパラ水泳が東京アクアティクスセンターで、5月11日にはパラ陸上が国立競技場で行われた。


パラ水泳の木村敬一選手
パラ水泳の木村敬一選手

そのテストイベントの中で、ロンドン、リオパラリンピックのパラ水泳(視覚障害)メダリスト、木村敬一選手のコメントが印象的だった。「この夏にオリパラをやるとなったときにウイルスは完全にダウンさせてしまえるのは現実的ではないのかもしれない。コロナ禍で本番も開催する可能性が高いと思います。どうやったら犠牲なく開催できるということを僕たちが一生懸命考えていかないと。このテストイベントはそこをテストする意味もあったと思っているので、このような機会をいただいて感謝しています」。

テストイベントでは、競技エリア、テクノロジー、運営スタッフという必須要素を細かくチェックしている。今回は1年延期を受けてさらに内容を吟味、精査して開催されているのだ。

また、木村選手は会場の雰囲気について「国内のプールに比べて開放的で天井が高い。このプールを自分の生まれた国に作っていただいたことが幸せ」と話している。どうやって天井の高さを感じられるのかを聞いたところ、「音の響く感じや、空気の流れる感じで天井の高さを感じました」と答えてくれた。まさに、この感覚、気持ち、感じる心を知ることこそが、パラリンピックの醍醐味であると言える。

木村選手は金メダルの意味について、こう言っている。「1位の選手しか国歌を聞けない」。私もそう認識はしていたが、視覚障害を持つ選手にとって「音を通して祝福される」ことの大きな意味をあらためて知った。


東京パラリンピックに向けた競泳のテスト大会でスタートする(手前から)富田宇宙、木村敬一ら(共同)
東京パラリンピックに向けた競泳のテスト大会でスタートする(手前から)富田宇宙、木村敬一ら(共同)

自分たちが分からない世界でも、選手を通して感じたり知ったりできる。相手を知れば争いがなくなる。オリンピズムでもあるこの概念は、社会で生きていく中でも重要な側面だと、私は思う。

パラリンピックを学ぶには、こういったものもある。「日本版I'm POSSIBLE(アイムポッシブル)」という教材だ。パラリンピックを題材に共生社会の気づきを子供たちに促す教材として、国際パラリンピック委員会(IPC)が開発した。「不可能(impossible)だと思ったことも、ちょっとした工夫をすればできるようになる(I'm Possible)」というパラリンピック選手が体現するメッセージが込められている。

たとえば「車いすの選手を学校に迎えるためにはどんな準備が必要か」などの問いかけがある。社会の中でもさまざまな側面から物事を感じ、さらに競技に向き合ってきている世界中のパラアスリートから学ぶこと、感じることが必ずあるはずだ。

パラリンピックの赤、青、緑で成り立つシンボルマークの「スリーアギトス」のアギトにはラテン語で私は動くという意味がある。今こそ1人1人が、世界で起きていることについて「なぜなのか。どうやってなのか。いつなのか」を、主体的に考えるときなのかもしれない。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)