北京冬季オリンピックが開幕した。夏、冬どちらもホストシティとして開催するのは北京市が初になる。2008年北京夏季オリンピックを思い出すのは自然の流れだろうか。私が人生初めてのオリンピックに出場した大会だ。

競泳ではアメリカのマイケル・フェルプス選手が前人未到の8個の金メダルを獲得した。NBAのスーパースターだった故コービー・ブライアント選手も、彼の栄光の瞬間を観戦しに来ていたことを思い出す。当時競泳が行われた会場「ウオーターキューブ」は冬季になって「アイスキューブ」と名前を変え、2008年のレガシーを残しつつ、「未来へ向かって一緒に」というモットーを2022年は掲げている。

開幕後、日本代表はモーグル男子で堀島行真選手が銅メダル。ジャンプ女子では高梨沙羅選手が4位と健闘し、男子ノーマルヒルでは小林陵侑選手が圧巻のジャンプで金メダル。スピードスケート女子1500メートルでは高木美帆選手が銀メダルを獲得した。

こうなると4年前の平昌オリンピックを思い出さずにはいられない。競泳選手の私は、当然ながら夏季オリンピックしか出場したことがない。初めて冬季オリンピックの現地に入ったのは、東京2020大会組織委員会メンバーとしての仕事だった。

一番の印象は何と言っても「寒い」ことだ。先日、モーグル女子の川村あんり選手がメディアの方に「寒い中、ありがとうございました」と発信したことも話題になった。山で行う競技は氷の競技と場所が異なり、環境もかなり違いがある。小林選手が戦ったジャンプ会場はマイナス11度と記載があった。もちろん選手やスタッフは寒さに慣れているだろうとは思うが、それにしてもやはり寒い。


今回のオリンピックで悩まされるのは、寒さだけではない。新型コロナウイルスの問題だ。海外で活動するスポーツ選手は、PCR検査、隔離期間など、気を配るところが格段に増えた。これらはさまざまな要因となって、選手としてのパフォーマンスに影響するのだ。

コンディションを整えるには練習、栄養、休養が必要だといわれているが、では「ピーキング」とはどんなものだろうか。緊張感高まるこの舞台で、どんな要素がハイパフォーマンスに必要なのだろうか。最終的なピークパフォーマンスには、心理的コンディショニングが強く影響を及ぼすと研究で明らかになっている。もちろん身体的コンディショニング、技術的コンディショニングも必要だ。

エリートアスリート(トップアスリート)は、「精神的に強い」などと表現されがちだ。精神が強い(メンタルタフネス)というのは心理的側面でも競技力向上に最も重要なものではあるのだが、実は鍛えるものではなく、コントロールすることを鍛えられるものなのだ。またそのメンタルタフネスがあるといわれる選手は何を持っているかというと、1つには競技に対してのコミットメントなのだ。そのほかにも、回復力(レジリエンス)などがある。

コミットメントに関しては、いかにその競技に集中し、最後まで取り組んでいるかということであり、「どうやったら、この角度で膝を曲げて飛べるか」など、細部にまで及ぶ。そして、それがうまくいかなくても、回復力で自身をコントロールできたりするのだ。

一説には、心理的コンディショニングには以下の12の要素があると言われている。

・身体的リラックス

・落ち着き

・不安の解消

・意欲

・楽観的な態度

・楽しさ

・無理のない努力

・自然なプレー

・注意力

・精神集中

・自信

・自己コントロール

実はアスリートはこれほどまでに数多くのコンディションを調整し、ピークをこの4年に1度に合わせているのだから、ただ事ではない。「すごい」の一言では語れないものがある。だからこそ、「試合後の選手の一言」が印象に残り、感動して拍手喝采し、称賛を送る。

今回のオリンピックは始まったばかりだ。現地には行けないが、日本から参加する全ての選手の健闘を祈る。(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)