東京都民になって40年近くたつが、甲子園の高校野球はずっと故郷の大分県の高校を応援している。今年の選抜は明豊が出場した。プロ注目の選手はいない。新チーム結成時に川崎監督が「近年最弱」と酷評したと報じられていたので、さほど期待はしていなかったが、優勝候補の市和歌山、智弁学園、中京大中京を連破して、決勝まで勝ち上がったから驚いた。

昨年の明豊の方が優勝を狙える戦力だった。エース若杉と強力打線で前年の九州大会を制した。ところがコロナ禍で甲子園は春も夏も中止。夢の舞台に手が届いた途端に大会が消滅した。猛練習に耐えてきた3年生の絶望は想像すらできない。しかし、彼らは夏の大会の中止後も練習を続け、夏休み明けも、2年生に日本一の夢を託してノックバットを握ったと聞いた。

先輩たちの思いとサポートが、今年の急成長を後押ししたのだろう。何しろ昨秋の九州大会から甲子園の決勝まで8試合無失策。それは圧倒的な練習量と、そこで培った高い集中力の証しだ。一方で私はむしろ昨年度の3年生の人間としての成長に驚く。誰も経験したことのない失意と試練を乗り越えて、後輩たちのために一役買う。彼らは不条理にも屈しない強い心を、野球を通して育んでいたのだと思う。

昨年12月に高校バスケットボールの全国大会を取材した。部活動の自粛期間は3カ月以上にも及び、高校総体も中止になった。それでも選手たちは自主練習を続けていた。毎日5キロも走り込んだ選手、1人でシュート練習に明け暮れた選手もいた。「目標を失いそうになる中、選手たちは今できることは何かを必死に考えてきた。今を生きる力がついた」。鵠沼(神奈川県女子代表)の細木監督のコメントは今も胸に残る。

昨年度の3年生は将来「コロナ世代」と呼ばれるだろう。コロナ禍で多くの目標や思い出の場が奪われ、1度は心も折れた。しかし、乗り越えた苦難が大きいほど人は強く、大きくなれるはずだ。誰も経験したことのない逆境で手にしたものは、きっと未来の大きな力になってくれると思う。コロナを乗り越えた世代として胸を張ってほしい。

残念ながら明豊は決勝で東海大相模にサヨナラ負けした。私は試合中には一喜一憂したが、不思議と試合後は悔しくなかった。むしろ明豊ナインの涙を見て、少しうらやましい気持ちになった。いまだコロナ禍が収束しない中、あこがれの舞台でひたむきにプレーして、持てる力をすべて出し切って涙を流す。何という幸福。それで十分じゃないか。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「スポーツ百景」)

第93回選抜高校野球大会第11日・決勝 明豊対東海大相模 準優勝旗を手にする幸修也主将(左から2人目)左は簑原英明(2021年4月1日撮影)
第93回選抜高校野球大会第11日・決勝 明豊対東海大相模 準優勝旗を手にする幸修也主将(左から2人目)左は簑原英明(2021年4月1日撮影)