今回は未来のトライアスロン界を担う若きアスリートの活躍と今後の展望について、記したいと思う。

7月3日の日曜日、第24回日本U19トライアスロン選手権/JOCジュニアオリンピックカップ、第1回日本U23スプリントトライアスロン選手権が、宮城県仙台市七ケ浜町スリーエム湊浜海浜緑地で開催された(U19、U23同時スタート)。

同日開催のみやぎ国際トライアスロン仙台ベイ七ヶ浜大会(エイジの部)ではランが短縮になるほど気温が高く、コースも起伏が激しくハードだ。そんな過酷な状況の中、勝利を手繰り寄せたのは誰か。

U19、U23で優勝した林愛望
U19、U23で優勝した林愛望

まずは女子のレースから。

高校1年時の2020年日本選手権で入賞を果たし、今回の優勝候補でもある林愛望選手(岡崎城西高・まるいち)をはじめ、スイム、ランが得意な選手が多くいた。女子は特にスイムアップの位置がポイントとなる。

レースは、スイムが得意な林愛望、池口いずみ(日体大)、佐藤姫夏(敬愛大・稲毛インター)、枡田日菜果(三好高・アルファ)に、ランが得意な林彩夢(岡崎城西高・まるいち)が加わり、5選手で先頭集団が形成された。

その集団をバイクが得意な平泉真心(流通経大)、齋藤椛凛(福島県トライアスロン協会)らが追う展開。しかし、その差は縮まらず、5人がそのまま後続に差を広げて、ラン勝負へ。

タフなコース、暑さの中ではあったが、前評判通り3種目ポテンシャルの高い林愛望が2位以降に50秒差をつけ優勝。第1回日本U23スプリント選手権を制した。林愛望はU19でもあるため、両カテゴリーでの優勝となった。

U23の2、3位は学生界トップクラスで活躍中の池口と佐藤が続いた。

U19はバイクの第2集団からランで追い上げた平泉が2位。3位には林愛望の妹である彩夢が食い込んだ。

表彰台に上がった女子選手
表彰台に上がった女子選手

注目したいのは林姉妹だ。

姉の愛望はオールラウンダーで、日本トライアスロン界の次世代ホープ。また、妹の彩夢は高校1年生。今回はスイムからU23カテゴリーで活躍する大学生らとともに積極的なレース展開をみせた。今夏、愛望は1500m、彩夢は800mと1500mで陸上のインターハイ出場が決まっている。

次世代女子選手の展望を日本トライアスロン連合ハイパフォーマンスチーム次世代育成スタッフ武友綾巳さんに聞いた。

「パリ五輪に向けての戦いが始まり世界がさらに高速化していく中、今回のレースは日本国内でもランの力がある次世代の活躍が目立ちました。スイム、ランのポテンシャルがあるタレント選手たちが、リージョナル育成事業の合宿で着実に力をつけてきていると感じます。ここから先は、次世代日本トップ選手たちがアジア・世界に挑戦し、世界基準を持ち帰って日本全体のレベルを引き上げていってほしいと願っています。U23、U19ともに7月23日アジア選手権の代表メンバーが表彰台を独占し、この勢いのままアジア選手権に挑みますので、ぜひ注目してください」と話す。

U23優勝の森拳真
U23優勝の森拳真

続いて男子。

男子のレースは、スイムで圧倒的な力がある望月満帆(トーシンパートナーズ・チームケンズ)、3種目穴のない徳山哲平(早大・ロンドスポーツ)、陸上競技から転向し、ランが脅威の森拳真(トヨタ自動車)を中心にどのようにレースが展開していくかが見ものだった。

予想通り、望月が積極的にいき、スイムアップ時では後続と約20秒離し単独に。次に、徳山、安藤勘太(流通経大)、甲斐瑠夏(佐賀県トライアスロン協会)と続いた。森はトップから約45秒離れてスイムアップ。

望月がバイクでも積極的にいき10kmまで独走。そこに徳山と甲斐が追いつき、3人の第1集団となりバイクフィニッシュ。後続の第2集団とは30秒差だ。

今回のランコースは起伏が激しく、ランが得意な選手が優位に働くコース。そんな中、第2集団から森が猛追。30秒差をひっくり返し、自身初となるU23日本一のタイトルを獲得した。

2位は終始積極的なレースを見せた望月、3位は徳山が表彰台にのぼった。

U19は高校で陸上部に所属し、ランが得意な若竹葵礼(チームエフォーツ)が初優勝。同じくランが得意な浅沼一那(日本体育大学柏高校)が6秒差の2位に入った。3位はスイムを得意とする林田悠希(同志社大学)がランでも粘り表彰台に食い込んだ。

表彰台に上がった男子選手
表彰台に上がった男子選手

今後の次世代男子の展望をオリンピアンであり、現在は大学トライアスロン部監督、次世代育成にも携わっている田山寛豪さん(NTT東日本・NTT西日本/流通経大准教授)に伺った。

「男子も女子と同様、世界のレベルが格段に上がっているので、次世代の選手たちには"世界で戦うには?"という事を常に意識してほしいと思っています。今回、優勝した森選手には、これで満足せずにこの経験を弾みに、課題を克服してさらに上を目指してほしいです。望月選手は惜しくも2位でしたが、スイム・バイクと積極的なレースを展開し、課題であったランで以前より粘ることが出来ていました。最近は海外レースも経験し、視野が広がり、今回のレースも"世界で戦うためには"という気迫を感じました。この望月選手のレース展開を、森選手、徳山選手はじめU23、U19の選手たちがどう捉えるか。みんなで切磋琢磨し合いながら、世界で戦える選手になってほしいですね」と話す。


私も武友さん、田山さんと同様、男女共に世界のレベルが上がっている中、「世界に目を向けること」が大切だと感じた。

スイム、ランのタイムは世界で戦える持ちタイムの選手もいる。しかしながら、トライアスロンという複合競技はタイムだけでなく、経験が大切になる。この選手たちが世界を見据えて意識を向ける事で日本の強化にもつながると思う。

うれしいことに、数年前より出場人数も増え、トライアスロンというスポーツで戦っていきたいというアスリートが増えている印象がある。日本トライアスロン連合のハイパフォーマンスチームはリージョナル育成事業を軸にし、各地域で次世代育成の育成を強化している。また、そこに陸上界で活躍中のTWOLAPSにランの指導、マラソンスイムオリンピアンの貴田裕美さんらにスイムの指導を仰いでいる。

その強化が、日本トライアスロン界の底上げとなり、トップの強化にもつながる。そう信じて、これからもトライアスロンの発展に注目していきたいと思う。

(加藤友里恵=リオデジャネイロ五輪トライアスロン代表)